残り23日


「なんて噂があったんだけど、見に覚えはあるの?」


「うーん、覚えがありすぎて何を話したらいいか分からん」


 昨日の女子達の噂をさっそく本人に聞いてみたところ、思っていた回答と反対の言葉が出てきて笑ってしまった。


「うそでしょ、何したのよ。お母さん怒らないから正直に言いなさい」


「誰がお母さんだよ。正直に話すも何も、そんなこといちいち覚えてないから言えない」


 アゲハにとってはどうでもいいことだが、そばにいた誰かさんにとっては不都合だったのだろう。

 それに対して怒った相手が、変な噂を言いふらすものの、当の本人がまったく気にせずに生活していることが、さらに怒りを与える要因になっているのかもしれない。


「……喧嘩をふっかけたとか?」


「いいか、花蓮。俺は絶対に自分から暴力は振らない。それはクソ親父と同じになっちまう」


 冗談で言ったつもりが、アゲハの地雷を踏んでしまったらしい。なぜなら、今までに見たことのない目つきで私を睨んできたからだ。


「ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったわ」


「……すまん、俺も子供みたいに怒ってしまった」



 ちょっと前なら、これを機に気まずい関係が数日は続いたはずだ。でも腹を割って話した仲になったおかげで、そんな心配もする必要がなくなったのが思った以上に嬉しかった。


 ……この何気ない日々が、いつまでも続けばいいのに。

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