残り36日
「ごめんなさい、わざわざ呼び出して」
「いいよいいよ、逆に遅くまで残ってもらってごめんね。こちらこそありがとう」
今は放課後の部活動が終わった後……時刻は20時すぎだ。
部活動に行こうと教室を出ると、花蓮さんが「今日の部活動後に時間を貰える?」とお願いをしてきたので快く返事をして今に至る。
花蓮さんにはアゲハがお世話になっているので、お願いの一つや二つくらい容易い御用だ。
それにしても、彼女から僕に話しかけてくるなんて本当に珍しい。たぶん僕が女の子に振られることと同じくらい稀だと思う。普通の女子からだったら告白でもされるのかなと思うが、今回に限っては絶対に違うと断言できる。少なくとも、もし彼女がそういう言葉を言うのならば、その相手は僕では無く彼に決まっている。
「おいおい健人、また女かよ……って、柏木じゃねえか。空門の女に手を出すのはさすがにマズイんじゃないか。やめとけやめとけ」
「違うよ裕樹、そういうのじゃないって。むしろそのアゲハについて知りたいから彼女は僕を訪ねてきたのさ」
彼女が僕を頼るとなると、アゲハのこと以外に考えられなかったからだ。
「あー、なるほどな。そういうことか。おい柏木、アイツを狙うなら何時でも襲われる準備はしとけよ」
「は!? ちが、そういうのじゃ」
「はっはっは!! 冗談だよ。じゃあな健人」
顔から蒸気を出しながら必死に首を振る花蓮さんを見ると、もうその姿だけで肯定をしているようなものだった。
「それで、僕に何の用なの?」
正直、話の内容は何となく理解できているが、わざわざ夜まで残っても聞きたいことがあるのだ。なにか大事な話があると予想している。
「その……アゲハのことなんだけど」
まあ、そうだろうなと思った。昨日も今日もどこかアゲハと気まずそうにしていたので、きっと変なすれ違いでもしたに違いない。ほんと、世話の焼ける二人である。
先日、姫乃ちゃんから「あの二人を全力でサポートし隊を結成しましょう。メンバーは私たち二人です。ではよろしくお願いしますー!!」と、告げ口をされているので、さっそくメンバーとしての仕事をまっとうするこもにしよう。
「彼の、その、過去のことを聞きたくて」
「……アゲハは何て言ったの?」
「まだ話したくない感じだった」
そっか。アゲハは『あの過去』を話してないんだ。でもそれは、決して悪いことではないと僕は思った。内容が常人のそれとは余りに重すぎて、簡単に話せるようなことではない。僕ですら話すことを躊躇っていたし、そもそも聞いたキッカケは、彼の家に遊びに行った時に景兄さんから聞いたからだ。
「花蓮さん、それなら僕から話すことはできない。アゲハの許可もなく話していい内容じゃないからね」
すると花蓮さんは見えて分かるように凹んでいた。さっきといい、なんか分かりやすい人だなぁ。そして普通に可愛い。アゲハの友達じゃなかったら狙っていたところだった。
「なんで今になって知りたいと思ったの?」
「今になってというか……私だけ知らないのが……気になって」
私だけ……もしかして。
「なら姫乃ちゃんがアゲハの過去と何か関係があることを知っているんだね」
花蓮さんは首を縦に振って肯定する。これはこれは……立派な嫉妬じゃないですか。あれまぁ、アゲハさんもなかなか罪深い人だ。
たぶん、アゲハは鈍くさいから勘違いさせるような言葉で誤魔化して、そのままお互いに気持ちがすれ違いして変な空気になっているということか。
ここは僕が二人のために助力してあげましょうかね。
「大丈夫だよ、アゲハは別に花蓮さんを仲間ハズレにしてるわけじゃないから」
これから先は別の誰かに聞かれたくなかったので、花蓮さんに近づき、そっと耳元で呟いた。
「むしろ、花蓮さんを大切にしたいから言いたくないんだよ。きっとね」
予想もしなかった言葉に、花蓮さんは眼を見開いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます