彼女の余命は後100日

凛句リンク

エピローグ 

 ――静かな部屋の中、男が仏壇の前で拝んでいた。


「…………」


 その姿勢は凛々しく、綺麗な正座であった。


 この男を一目して、一体誰が数年前まで不良少年だったと見破れようか。


 しばらくして、男は慣れた手つきで一連の動作を終える。その顔はどこか――寂しそうだった。


 ここではない遥か彼方を見て、きっと届いていると信じ言葉を紡ぐ。


「俺は、今日も元気にしてるぞ」


 ここで話していると不思議と口の端が少し上がってくる。


「もう仕事も慣れてきたんだ。この俺が真面目に働いてんだぞ? まあ、景兄からの依頼がほとんどだから社会人ってわけではないがな」


 彼女がいたら、きっと無駄口の一つや二つくらい叩いていたに違いない。


「そっちはどうだ。楽しくしてるか」


 きっと自由気ままに図々しく過ごしているだろう。天使でさえ顎で扱ってそうだ。


「また根暗に戻ってなきゃいいが」


 でもたまに落ち込むから様子を見てあげないといけない。


「私のことは忘れろとか言ってそうだな、お前は」


 自分が足かせになるくらいなら消えて無くなるって言いそうだし。


「わかってるよ、いつまでもお前にすがっちゃいけないって。それくらい」


「でもよ、もう少し、もう少しだけ、居させてくれ」


「――花蓮」





 これは、とある少年と少女の間で起きた、100日間の儚い物語である――



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