君待つ夏、僕

しろな

第1話 消え去れ、夏

田舎の夏は嫌いだ、肌を焼くような日差しに

悪魔のような蚊、全てにおいて嫌いだ。

田舎のバスは1時間に1度と、少ない。

僕は、僕は今日が嫌いだ、7月28日。今日という日が憎くてしょうがない。

そんなやり場のない思いを胸に僕はバスに乗り込んだ。


◇◇◇


僕は教室に入った。友達が話しかけてきた。

「おはよう、優……」

明るい表情でも暗い表情でもない、憐れな人を見ているかの様な表情だ。

僕はそんな顔をさせる今日が嫌だ。

「今日で1年経ったんだな」

あぁ、聞きたくない、現実を突きつけないで欲しい

もう、思い出したくないんだ、やめてくれ、お願いだから

「あんまり落ち込むなよ」

慰めるな、落ち込んでいない、それ以上やめろ

「やめろ!僕は、落ち込んでなんかいない……」

声を荒立てて言ってしまった。でも、僕は悪くない

全て今日が悪いんだ。

そう思わないと、やってられない気がした

「幼なじみが死んで辛いのは分かる、でも、もう1年経った、そろそろ元気出せよ」

今こうやって慰めてきてるのは、ぼくの友達の涼だ

悪いやつじゃない、けど今日は、ほっといてほしい

「沙耶は、事故だ、誰も悪くない」

もう聞きたくない

「悪い、今日はそっとしておいて欲しい」

「あぁ、分かった。ごめんな」

分かってくれて良かった

今日は何もしたくない


◇◇◇


学校が終わり家に帰った。

今日ほど辛い1日はなかった。

もう、寝たい


「ただいま」


おかえりなんて返って来ないのは分かっている

僕は部屋に行き、ある手紙を見た

「今日…開ければ…いいんだよな……」

手紙にはこう書かれていた、死ぬ前沙耶が僕に渡した手紙だ。渡された時にこう言われた

「これは私が死んでから1年後に見てね!絶対だよ、約束!」

彼女は笑顔で言っていた。死が怖くないのか、なぜ笑ってられるのか、僕は不思議だった

「沙耶、見るよ」

僕は手紙を開いた

綺麗な字でこう書かれていた


「久しぶりだね、優、まだ落ち込んでるかな?

この手紙を見て泣いたりするかな?なんてね

優の事だからまだ落ち込んでると思うんだ、だからさ、私を迎えに来てよ!どうせ今何言ってるんだ

こいつって思ったでしょ、私は本気だからね。

優は、トキバスって知ってるかな?そのバスはね自分の大切なものを取り戻せるバスなの。でもその代償として自分の大切なものと交換するの。

優なら、迎えに来てくれるよね、待ってるから」



手紙はここで終わっていた。沙耶が死ぬ間際に言っていた「私はいつまでも待ってるから」の意味がやっとわかった。

でも、何を言っているのか分からないよ。

トキバス?大切なものを取り戻せる?

なんだそれ、謎が多すぎる

そもそも迎えに来いって言ってるのに、そのバスがどこに現れるかどの時間に来るかって書いてないじゃないか。

全く意味が分からないよ

あぁ、疲れた、今日は疲れた……


◇◇◇


どうやら僕は寝てしまっていたらしい。雀のさえずりで僕は起きた。

髪がベタっとする、ひとまずシャワーを浴びよう


制服に着替えている時にふと思い出した

「そうだ、昨日手紙を見たんだ、そして迎えに来いって…」

全て思い出した、迎えに来いって言われたって……

とにかく学校に行こう




「おはよう、優」

「おはよう」

昨日の様な表情もなく、普段通りに日々が過ぎていった。いや、過ぎて欲しかった

「ねぇねぇトキバスって知ってる?」

一瞬何を言ってるのか分からなかった

なぜ、美奈がトキバスの話をしているんだ?なんで知っているんだ?

美奈話している友達は不思議そうな顔をして、会話を始めた

でも僕は居ても立ってもいられなくなり、美奈に話しかけてしまった。

「トキバス、知ってるの?」

僕は陰キャ彼女は陽キャ、しかも美人だ、美奈と話したことなんてなかった。でもそれどころじゃなかった、だってこんなタイミングでトキバスの話が出てきたのだから

「えっと、確か、優くん?だよね…?」

「え、あ、えっと、うん……」

所詮僕は陰キャ、この後話を続けるスキルなんて持っていない、その場から逃げてしまった

「はぁ、なんで逃げちゃったんだろ…」

そんな後悔をしながら、1時間目の授業中をサボってしまった


◇◇◇


学校が終わり帰ろうとしていた、今日もまた誰も居ない、正しくは帰ってこない家に帰ると考えると嫌になる

そんなことを考えながらいつも通り何も無い1本道をただ歩いていた

「優くん!」

ん!?僕は驚いた、高校生活を2年も送っていたが

女子から話しかけられることなんてなかった

それもクラス1の美女に

僕は反応に困った

「な、何かな?」

こう返すのが精一杯だった

「トキバス…ハァハァ……知ってるの?ハァ…」

彼女はかなり息が切れていた、きっと僕を追いかけるために走ってきたのだろう

「とりあえず息を整えようか」

僕はそう提案し、道の端に座った

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