食料保存の科学

林海

第1話 〜食料の保存を妨げるもの〜


 食料を保存するにあたり、最初に知っておかねばならないことがあります。

 それは、食料保存の最大の敵、「腐敗」という現象についてです。


 どのような食料であれ、「微生物」が繁殖し、腐敗が進んでしまったら食べることはできません。それは、食品の変質のみでなく、微生物が人体に有害な物質を作り出すからです。

 このような、人間にとって都合の悪い働きは腐敗とよばれますが、その一方で人間にとって微生物が行う良い働きは、「発酵」と言います。

 発酵がおき、味噌やお酒のように保存性や栄養価が高まる場合もあります。しかし、発酵という現象を食品加工の手段にするためには、発酵を起こさせる微生物の生育条件を整える知見を得なければなりません。

 人類がそれを手に入れるまで、発酵は運に左右される極めて不確かなものに過ぎませんでした。


 腐敗がおきる条件としては、「腐敗を起こさせる微生物の存在」「養分」「腐敗するまでの時間」「温度」「水分」の5つが挙げられます。これは、腐敗を起こす微生物の生育、増殖の環境として必須のものです。なお、「酸素」は必ずしも必要ではありません。

 これらの条件を満たせないように、一つまたは複数の手法を組み合わせるのが、昔も今も食料保存の方法なのです。


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【注】 ここから先では、生物学的に「微生物」と表現すべき場所でも、「菌」等の言葉を多用します。純粋な生物学ではなく、人との関わりの中では「微生物」という用語は使用しにくいのです。例を挙げれば、「殺菌剤」という言葉はあっても「殺微生物剤」という言葉はないからです。

 また、「食材」は自然から採取したもの、「食品」は人間がそれを摂取できる形にしたものと定義させていただきますが、生野菜のように境界が定義しきれないものがあります。加えて、「食料」はこの2つを合わせたものと定義させていただきます。

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