短編

水無瀬海莉

仲直り

きっと仕方のないことなのだ。

そう思いながら、黙々と駅から家への短いとも長いとも言えない道を進んでいた。

仕方ない。あれは仕方のないことなんだ。

今日一日、忙しい時も暇な時も、それだけがずっと頭の中でぐるぐると巡っていた。

昨日はお互い疲れていて、あの後そのまま眠ってしまったから。

朝はお互いの時間が合わず、自分は今日に限って急いでいたから。

そんな言い訳をしながら、自分の行動を正当化しようとしていたが、胸の内に巣食うモヤはなかなか晴れてくれず、あっという間に日も落ちた。

どうにかしないと、とは思っているが、無駄に存在する自分の中のプライドと、少しの羞恥心が邪魔をして、なかなか素直になれずにいる。

(面と向かって言えないならせめてメッセージ上で……いや、でも)

わが家へと向かう足は止めることなく、だが、頭の中はいつもの数倍せわしなく。

家までの距離と比例するように、口から吐き出される溜息は、段々と大きく重いものになっていく。

この時間なら、あいつはもう帰っているだろう。

顔を合わせたらどうやって話を切り出せばいいのだろうか、と滅多に考えないようなことを必死になって考えながら階段を上がり、鞄から鍵を取り出し、鍵を開け、ドアノブに手をかけ……という一連の行動が、心なしかいつもよりも億劫な気がする。

いや、実際に億劫だと思っているのだろう。

結局、無理のない話の切り口から始まって何もかも解決していない。

家に入る前に最後に一度、大きく溜息を吐き出すと、意を決して家の中に入る。

「……ただいま」

扉の開閉音で気づいてはいると思うが、一応帰ってきた、ということを伝えるために呟くが、リビングに灯りがついておらず首を傾げる。

玄関に靴はあるから帰ってきているのは確実だ。

寝てしまったのだろうか、と出端を挫かれながらも、リビングの電気をつけると、テーブルの上に見慣れないものが置いてあり、何だろうかと思い近づいてみる。

するとそこには、

『昨日は悪かった。ごめん』

と書かれたメモと共に、まだ保冷剤がしっかりと残っている近所のケーキ屋の箱が置いてあった。

箱を開けると、きっちりとプリンが二人分並べてあって、思わずさっきまでの葛藤を忘れ、ふっと笑みを浮かべてしまう。

多分、これを置いた犯人は奥の部屋にいるのだろう。

早いところ謝って、仲直りをしないと、せっかく買ってきてもらったプリンが温くなってしまう。

掛ける言葉は、俺もごめん、でいいだろうか。

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