カプセルホテルの支配人

@ssSnufkin

第1話 チェックイン

このホテルはいつもガラガラだ。

長期の客が一人二人、それから出たり入ったりの客も一人二人。

八室だけの無機質な作り、テレビも無い、トイレも風呂も無い、キンキンに冷えただけのこのホテルはいつもガラガラだ。


今日もまた、新しい客が両親に連れられてやって来た。

案内員は薄く微笑みながらも、慈愛に満ちた顔で両親に話す。

「こちらで一晩、お嬢様を安置いたします」

年老いた父はくしゃくしゃの顔を更に歪め、娘の顔を撫でた。

「寒いだろうなあ、少しだけ我慢してくれな」

娘は何も答えない、答えられない。

当然、涙を流すことも微笑みを返すことだって無い。

「明日の正午過ぎ、こちらから控え室に移ります。それから化粧をして、会場の・・・」

案内員はもうこんな光景に慣れてしまっているのだろう。

丁寧に、だが淡々とこの先の説明を続ける。

父はただ黙りそれを聞いた。

母はずっと、娘の名前が貼られたドアを眺め続けていた。

それから夫婦は肩を寄せ合い、案内員に連れられ部屋を後にする。

何度も、何度も振り返りながら、ゆっくりと部屋を後にする。

娘はただ横たわり、キンキンに冷えた部屋の中で何を思うのか。

いや、そこにはもうただの肉の塊があるだけなのだろうか。


このホテルはいつもガラガラだ。

長期の客が一人二人、それから出たり入ったりの客も一人二人。


このホテルはいつもガラガラだ。

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