そしてまた物語は始まる③
俺は背中に背負った荷物の身体に馴染んだ懐かしい重量感を感じながら恋人の鳴海 雨を尾行しながら移動している。
決して気取られないように尾行し、そうして移動していった先にて鳴海は金髪の男と合流した。……もしかして、奴がウサギ野郎か?よし、顔は覚えたからな。
鳴海と金髪の男は街を移動してビルとビルの谷間に消えて行った。俺はそんな二人を観察出来るようなビルの屋上に移動した。見失う可能性もあったが、こちらを見つけられる事の方が致命的だと判断して……遠くからスコープを覗きこむ。
「……いた」
小さな声で呟き、スコープの先に映る鳴海は……なるほど、あれが例の魔法少女のコスチュームなんだな。
俺は魔法少女というものを知らなかったが、調べてみたところ『魔法少女』という職業は日本では『忍者』と同様にメジャーな職業らしい、アニメにもなるほどメジャーだとは知らなかった、それは俺の勉強不足だった。そんな大変な職業に学生の身でありながら就いている鳴海はとても偉いと思う。
俺はこの場所なら大丈夫かと調整された狙撃銃を取り出す。一度は捨てたものだったのだが……俺はやはり硝煙の臭いからは逃れられないのかもしれない。でも、以前と違うのは、俺は自分の意志で銃を手にしているということだ。
狙撃銃に付けたスコープを覗いた先には可愛らしい格好をした鳴海 雨が映る。
「……鳴海はどんな格好も可愛いな」
見慣れぬ彼女の格好に少し照れ、スコープの視線をずらせば
「……本当に黒いウサギが浮いている、この世の中に魔法なんてものが本当に存在するのか……」
声だけは知っているムカつくウサギ野郎をこのまま狙撃したい気持ちを抑え、冷静になろうとする。
「……とりあえず様子見だ、でも鳴海に危機が迫ったら躊躇わず撃つ」
世界の為に戦うという鳴海、でも俺は鳴海 雨という少女の為だけに戦うと誓う。
☆☆☆☆☆
俺は先日、気がついたときには一人暮らしのマンションの一室にいた、何故かその日の記憶がなかった。
「……一体、どういうことだ?」
記憶がない、そんな俺は制服の胸ポケットから録音機を取り出す、早くて言葉が聞き取れない時に後で確認するために常日頃から常備しているこれに何かしらの失われた記憶の情報が残ってないかと確認したらきちんと録音されていた。その中には簡単には信じられないような会話が録音されていた。
とりあえず俺の記憶を消した奴もさすがに俺が胸ポケットに忍ばせていた録音機を作動させていたとは思っていなかったようだ。
録音を聞いた限りでは『結界』というものの中にいたら記憶も録画も消されてしまう魔法があるらしい、この時が結界を張っている前だったのが幸いしたようだ。
「……魔法少女?世界を守る?これは本当のことなのか?」
にわかには信じがたい会話が録音されていたが、俺は鳴海 雨という少女の言うことならば何でも信じられる、これは本当のことなんだと仮定して、これからどうするかを考えた。
まず始めに考えたのは鳴海がウサギ野郎に騙されているんじゃないかという可能性だ。声を聞く限りだが怪しすぎる。鳴海は何故、こんな奴と一緒に魔法少女なんてやっているのだろう。
そして次は世界を守ると言っていたが、そもそも世界を脅かす敵ってなんだ?相手も魔法を使う敵なのだろうか?
「……先ずは見極めなくては」
敵を知らねばこちらから攻めることもできない。鳴海を守るためならと戦場に戻る覚悟をもって俺はツテを利用して銃器を手に入れた。
部屋の中でひとり、銃の手入れをしながら録音機の再生ボタンを押す。
『……榊先輩、ごめんなさい。魔法少女の為の条件は本当のことなんです、でも信じてください!私はいつか、世界が平和になったら先輩にすべてを捧げたいって思ってるんです……』
鳴海がどんな表情をしていたか、残念なことに記憶は失われていた。でも、この音声を再生するたびに榊 主鷹は胸を高鳴らせ、顔を赤らめていた。
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