そしてまた物語は始まる②


 「……な、鳴海?なんだ、その格好は?コスプレか?」


 「せ、先輩!?なんでこんな所に!?」


 自分の目の前にいたのは、何かとてもカラフルな服装に短いスカートを身に付けて、手にはごちゃごちゃと星や花のような形の装飾がされている棒を持った鳴海 雨がいた。これはどういうシチュエーションだろう?


 「あーあ、もしかして尾行してきたの?」


 そう話しかけてくる男の声は……目の前に浮いている頭の所だけ金髪の黒いウサギから声が聞こえてきた。え?ウサギが浮いているし、喋った!?


 「な、鳴海、これは手品なのか?黒いウサギが空中に浮いている上に喋っているように聞こえたんだが?」


 「ははは!手品なんかじゃないよ?これは本物さ、本物の魔法(マジック)だよ!」


 俺は鳴海に尋ねたのに、目の前のウサギが俺のことを馬鹿にしたように笑って答えた。


 「榊先輩……何でついてきちゃったんですか?」


 「いや、それは……」


 「ふふっ、さては雨(レイン)が見知らぬ男と一緒にいたってどこからか噂を聞いて気になってついてきたんだろう?ははは、雨(レイン)、君は彼氏に信頼されてないようだよ?ははは」


 そう黒いウサギがムカつく口調で何故か鳴海のことをレインと呼びながら俺にそんなことを言ったと同時に黒いウサギは先程と同様な光を放ち、光がおさまったと思ったら、俺の目の前には……先程、尾行してきた金髪の男がいた。


 「な、なんだ、これは……ウサギが金髪の男に変身した……?」


 「何度も言ってるだろう?魔法だって。ほら、君は動くこともできないだろう?」


 「な、なんだと!?」


 言われて気がついたが、俺は縄などで縛られているわけでもないのに身動きがとれなくなっていた。何故だ!?


 「……くそっ、何で」


 「なぁ、雨(レイン)、物分かりの悪い君の彼氏に本当のことを教えてあげなよ!タイミングの悪いことに結界を張る前に現れちゃったんだ、仕方ないから僕が直々に彼氏の記憶を消してあげるからさ!」


 結界?記憶を消す?このムカつくウサギ野郎は何を言っているんだ!?


 「……先輩、心配させて、巻き込んじゃってごめんなさい。その、私は……」


 不思議なことに鳴海が着ていると思えば可愛らしく見える服を身に纏った彼女が、上目遣いで躊躇いがちに


 「……私は魔法少女なんです」


 そんな告白をしてきた。魔法少女とは一体、何を意味してるんだ?


 「ははは、そう!レインは世界の平和を守るために戦う魔法少女さ!君みたいな何の才能もない平凡な男とは違って世界のために戦っている偉い女の子なのさ!」


 世界の為に?何の事だ?それになんでそんな事を鳴海がやらなくちゃならないんだ!?俺がそう問いただそうとしたら


 「ははは、君のくだらない質問に答える時間はないから!お口もチャックさせてもらったよ!」


 ウサギ野郎が何かしたせいか俺は身動きもとれず、口を開くこともできなくされていた。そんな俺に鳴海が近づいてきて


 「……ごめんなさい、魔法少女は正体がバレてはいけない決まりがあるんです」


 「本当に迷惑な話だよ!結界を張った後ならその中にいた一般人の記憶も街の防犯カメラの録画なんかもまとめて消せるのに!それにしても……ふふ、恋人のレインが魔法少女だったなんて思いもしなかったんだろう?一つ良いことを教えてあげるよ、もっとも記憶は消してしまうんだけどね」


 「や、止めて!先輩に変なこと言わないで!」


 「良いじゃないか、恋人なら大事なことだよ?レイン。ふふ、君、良い事ってのはね、魔法少女である条件ってのは『純潔な処女(おとめ)である』ってことなんだよ。君にとっては良いニュースだろう?でもさ、彼女が世界の為に魔法少女であり続けるためには、君のいやらしい欲求を拒否し続けなければならないのさ!いくら求めても結ばれない二人!レインはこれを知ってて君に告白したんだろ?ふふ、君との関係なんて所詮は暇潰しの遊びなんじゃないかい?記憶を消され、このことを知らない君は求めても拒否し続けられてそれでも彼女の傍に居続けられるかね?ふふふ、楽しみだ」


 俺は声を出せず、視線だけを鳴海に向けたら、彼女は顔を赤らめて俯いていた。俺は鳴海の身体だけが目的ではない!そう伝えたかったが言葉は紡げなく、眼で訴えることしかできない。


 「……榊先輩、ごめんなさい。魔法少女の為の条件は本当のことなんです、でも信じてください!私はいつか、世界が平和になったら先輩にすべてを捧げたいって思ってるんです……」


 俯き、恥ずかしそうに小さな声で、でもしっかり俺に聞こえるように鳴海は言った。


 「……ははは、女の子にそんなことを言わせるなんて男冥利に尽きるというものじゃないかい!?……レイン、そろそろ遊びは終わりだ。戦いに行くよ」


 「……わかっているから、ちょっと待って。先輩、初めてのキスは二人の思い出にしたいから、今はこれだけ……」


 そう言って、鳴海 雨は俺の頬に初めてのキスをして、離れた。俺の身体が自由なら抱き締められたのに……


 「今日は頬っぺたですけど……今度は……いや、何でもないです!先輩、私、頑張りますから!待っててくださいね……」


 「ははは、それじゃ『君は今日の出来事の記憶を失くし、真っ直ぐ自宅に帰る』いいね?そうして、すべてを忘れて彼女に守られる情けない普通の人生を歩みなよ!じゃあね」


 金髪のウサギ野郎がそう言って俺の頭に手を翳したら……


 ☆☆☆☆☆


 「……あれ?」


 俺は自分の部屋で目が覚めた。今日はいつだろう?なんか頭がぼんやりとしている……

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