神宮寺家の双子たち⑩
「はい、お客さん。お飲み物のおかわりをお注ぎしますね」
「……いえ、お構い無く」
「ふふっ、お客さん。こういうところは慣れてるんですか?」
「……いえ、そんな慣れてるなんて……ははは」
「は、創ちゃ……えーと、お客さん?」
「……玲楓、無理しなくて良いからな?」
「うぅっ……」
椅子に座った俺を囲むように幼馴染みの衛藤 玲楓と、クラスメートの二階堂さん、後輩の神宮寺 月香さんがとても着飾って座っている。そう、夜のお店で働くお姉さんのような格好だ。
三人の女の子に囲まれているなんて幸せ者だな!と言われたら「NO!」と俺は答えるだろう。何故ならこれは現場検証だからだ。
「創の奴は店の女の子とデュエットしてたぞ」
そんな神宮寺師匠の一言に、着なれない装いに恥ずかしそうにもじもじとしながら玲楓が
「は、創ちゃん!それじゃ、私とも歌って!」
と、マイクで俺の頬をグイッと押してくるし、このシチュエーションを面白がっている二階堂さんは
「お客さん、おかわりいかがですか?」
と、もう結構と言っているにもかかわらずグラスに液体を注ごうとする。勿論、高校生の俺達なので注ごうとしている液体はジュースだ、今日は。
「……創さん、視線が二階堂さんの胸元を見ていますね」
そう言って殺気を秘めたような視線で俺を見つめるのは月香さんだ……怖すぎる。
「ははは、創の奴は仕方ないなぁ!」
「仕方ない奴なのはお兄様もです!少しは反省してください!お兄様の方は後でしっかりとお義姉様から叱っていただきます」
「……はい」
少し離れた席でこちらを面白がっている神宮寺師匠と、呆れ顔をしている妹の紅花さん。
紅花さんのコネでこの店を貸し切って、こんなよく分からない状況になっている。 なぜ現場検証が行われているかと言えば……
数日前に師匠に連れられて俺はこの夜の店に足を踏み入れたことが知り合いの女性達にバレたからだ。そもそもなんで俺が師匠と夜のお店に訪れたかというと
『創、これも男の修行だ!ついてこい!』
そう神宮寺師匠に言われたから訪れたので、俺は悪くないはずなのだが……
高校生の身でこういうお店に訪れたことがバレて、俺の母さんは
『……あんな可愛かった創ちゃんが、大人の階段を非常階段から上っているわ……』
と、能面のような表情をして言っていた、とても怖かった。燕姉さんは
『……こんなスケベ男のどこが良いのかわからないわ』
と、妹分たちに呆れ顔で言っていた。そして唯一、俺の味方になってくれそうな父さんには
『……創、神宮寺の奴は武術に関しては達人だが、他のところは基本的に馬鹿だから、のこのこ着いていっちゃ駄目だろ』
なんて言うし!神宮寺師匠を俺に紹介したのは父さんじゃないか!!
そんな家族の表情を思い浮かべていたら、神宮寺師匠が
「そうそう、店の女の子が創の太ももに手を触れながら話をしていたぞ、創の奴は鼻の下を伸ばしていたな」
師匠!?なんて余計なことを!そんな話を聞いて、周りの三人の女の子は能面のような表情になって三人で俺の太ももに手を伸ばしてくる。三人で太ももをつねらないでくれ!なんでそんなに力強いんだ!?
「創ちゃんのスケベ!」
「創さんのスケベ!」
「鳴海君のスケベ!」
「ご、ごめんなさいぃ……」
俺はひたすら三人の女の子が赦してくれるまで頭を下げ、手を合わせることしかできなかった。
☆☆☆☆☆
「……なんてことがあってな。本当に創の奴には困ったもんだ!」
「……ふぅん、はじめ君は三人の女の子に嫉妬されて大変だったのね」
「はは、そんなことは……」
そんな現場検証が行われたことを、師匠のお宅で、神宮寺師匠が師匠のお嬢さんの阿綺羅さんに笑い話として告げ口している。そんなことを阿綺羅さんに言わないで欲しい……
「ははは、創の奴はスケベだからな!」
「……ふぅん、はじめ君はスケベなんだぁ……」
「そ、そんなことは……ははは……」
和室の畳の上に置かれている机に両腕で頬杖してこちらを見つめる阿綺羅さんの眼は細められていて……とても怖い。そんなお嬢さんの目付きに気付かずに神宮寺師匠は更にこの前の出来事を面白おかしく話し続けた。
その後、昼食に阿綺羅さんが作ってくれたカレーは何故か俺のだけ激辛だったようで、俺は目からも汗を流しながらも完食したのだった。
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