神宮寺家の双子たち⑨
浅見 瑠璃は怯えながら日々過ごしていた。元彼のトシアキがいつ自分の前に現れるかわからないからだ。もう別れたのに向こうは諦めず、私の周囲に存在感を示し、私を孤立させようとする。そして孤立した自分を見つめる周囲の眼がまた恐ろしく感じられてしまう。どんな陰口をたたかれているのだろうと想像するだけで胃が痛くなっていた。
そんな浅見だったが、最近は自分のことを気にかけて話し掛けてくれる男性社員がいた。神宮寺さんというふとっちょな男性だ。初めの内は下心があるのかもと警戒していたのだが、どうやら純粋に心配してくれているようで、彼と話すことによって思いの外、浅見は救われていた。
でもそんな善良な人を私の厄介事に巻き込んではならないという気持ちも抱きながら過ごしていたある日、元彼のトシアキから連絡がきた。
こんな電話出たくない、でも無視したら会社にまでやって来るかも……そんな考えが浮かび、仕方なく電話に出たら
『……瑠璃か?俺だ……』
「……何?何か用?」
『……あぁ、もうお前には付きまとわない!約束するから!あの化け物をけしかけるのは止めてくれ!』
「え?何の事?化け物って?トシアキ?」
『……お前が仕向けたんだろ!?くそっ、本当に恐ろしい女だな!いいか、もう本当にお前には付きまとわないからきちんとあのデブを差し向けるのは止めてくれ!じゃあな!』
「えっ、ちょっと!……切れちゃった……」
何の事だかわからなかったが、もう私に付きまとわないとトシアキが自分から言っていたのできっと大丈夫なんだろう……
「……あのデブって?まさか……」
浅見の頭の中には、人のいい笑顔を浮かべる同僚の顔が浮かんだ。
☆☆☆☆☆
「あれ?浅見さん、どうしたの?」
浅見は、ほんわかという表現が似合う笑顔で応答する同僚の神宮寺の顔をじっくりと眺める、あのヤバい仲間達とも付き合いのあるトシアキをこの同僚がなんとかできるはずはないと思ったが、心当たりはこの人しかいない……
「神宮寺さん、お昼ごはん一緒に行きませんか?」
この同僚は底知れない何かを秘めた男性なのかもと興味を抱いた浅見が、一見して美人な浅見と釣り合わないふとっちょの神宮寺を食事に誘う。そんな状況に周囲はざわめいたが、当の神宮寺は
「一緒に行く?良さそうなお店見つけたんだ。安くてお腹いっぱいになりそうだよ!」
凄く嬉しそうな笑顔で頬っぺたを膨らませながら答えるだけだった。
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