大学編 第63話


 神宮寺家の双子の赤ちゃん、この二人は将来、俺に感謝をして欲しい。君たちが原因で何故か俺が神宮寺家の騒動に巻き込まれたんだから……


 ☆☆☆☆☆


 「……神宮寺、おとなしくお縄につけ」


 「……睦月、そこを退け!」


 「それは出来ない。これも仕事だからな」


 「……それでは押し通らせてもらう!覚悟しろ睦月!」


 俺に向かってくる拳を受け流す、神宮寺の奴は阿呆だが武術に関しては達人だ。俺が下手に攻めたらそれに合わせて反撃されて致命的な一撃を受けてしまうだろうからこちらは防戦一方だ。


 「ははは、睦月!守ってばかりじゃ俺には勝てないぞ!」


 「そうだな」


 でも俺の目的は神宮寺に勝つことじゃないんでな。

 神宮寺が向かう場所へ辿り着かないようにするのが俺のミッションなんでこれで良いのさ。


 俺は後ろに下がりながら神宮寺の攻撃を防ぐ。闘いの場所はたまたまこの場所になったわけではない。人目につかず、神宮寺が必ず通る場所であること、そして何より想定した罠を仕掛けられる場所であることだ。


 頃合いということで俺は勝負を仕掛ける、懐から取り出した拳銃を直ぐに神宮寺に向けて殺気を込めて撃った。

 神宮寺は驚愕の表情をしながらも拳銃の銃口の射線から逃れようとするが、これは音が鳴るだけの玩具だ。すぐに神宮寺も気付いたようだが、俺の狙いはわからなかったようだ。

 この玩具を使用した理由は牽制と合図だ。火薬の臭いと音が鳴り響いた途端に神宮寺に向けて四方に重りが付けられた網が落とされる。


 微かに体勢を崩していた神宮寺は避けようとするもそこに俺は手にしていた玩具の拳銃を投げ込んで邪魔をする。流石に直撃は避けるがそんな状態では網は避けられなく、神宮寺の動きを封じ込められた。あとは隠してあったロープの先端に重りを付けたボーラという武器を投げつけてお仕舞いだ。


 「くっ、睦月!卑怯だぞ!?」


 何かを喚いている神宮寺を無視していたら、協力してくれた穂積さん、渡貫さん、宇佐川さん、ナムさんが現れた。この四人には神宮寺に向けて上から網を落としてくれるようにお願いしていたのだ。


 「四人ともありがとうございました」


 「本当に神宮寺君は獣のような動きだったねぇー」


 「いや、それよりも計画通りことを進めてきちんと捕らえる睦月の方がヤバいぞ?」


 「……」


 「ホウシュウはまだですか?」


 「あぁ、はい。これが報酬です」


 懐から取り出した封筒をそれぞれに渡す。このお金の出所は美沙姫さんだ。


 「はは、ありがとうな」


 「それじゃ、先に帰ってるからねぇー」


 四人が去った後には俺とぐるぐる巻きにされた神宮寺だけが残る。


 「む、睦月?なんで俺の邪魔をするんだ!?俺は子ども達の為に……」


 「……子ども達の為に何だって?」


 「出生届を出そうと……」


 それが問題なんだろう。


 「なぁ、何で勝手に出生届を出そうとするんだ?」


 「そ、それは……美沙姫さんが俺の考えた名前は駄目だって……」


 「ちなみに何て名付けようとしたんだ?」


 「男の子の方は神宮寺 阿修羅王だ、一目見たときからこの子は天下をとれる武人になるって確信したんだ!それに相応しい名前をつけようとすることの何が悪いんだ!」


 何が悪いって……頭かなぁ?

 何でそんな格闘ゲームのキャラクターや少年格闘漫画のキャラクターのような名前をつけようって本気で考えるのだろうか。


 「美沙姫さんは反対したんだろう?」


 「美沙姫さんにはわからないんだ、この格好良さが!」


 うん、困った奴だなぁ。


 「なぁ、美沙姫さんに黙って出生届を出して、その後はどうなるか想像できないのか?一生、美沙姫さんに恨まれるんだぞ?美沙姫さんはその子の名前を呼ぶ度に悲しく辛い気持ちになるんだぞ?」


 「そ、そんなにこの名前は駄目か?」


 「その名前の良し悪しじゃなく、お腹を痛めて産んだ美沙姫さんの気持ちを無視するなって言ってるんだ!」


 その言葉に漸く神宮寺は気づかされたのか


 「……そうだな、俺が間違っていた」


 「きちんと二人で話し合って決めることだな」


 「あぁ……」


 それじゃ、ということで神宮寺を美沙姫さんの所に連れていこうと電話をかける。


 「……なぁ、睦月。とりあえずこの縄をほどいてくれないか?あと、この網も外してくれると助かる」


 「……俺の仕事は神宮寺を捕縛してきちんと美沙姫さんの所に連れて行くことだからな、駄目だ」


 説得はしたが逃亡する可能性もある以上、拘束は外せない。


 そして、俺が電話で呼んだのは美沙姫さんのお父さんこと会社の社長だ。


 「……睦月君、すまんね」


 「いえいえ、約束通り軽トラで来てもらって助かります」


 「お、お義父さん!?」


 「……真一郎君、娘のところに帰ろうな」


 「……は、はい」


 軽トラの後ろに神宮寺を載せて俺も一緒に乗り込んで座る。


 「……睦月君は助手席に乗らないのかい?」


 「社長、お気になさらず。こいつは拘束が解けたら走行中の車からでも飛び降りられる奴ですからここで監視してます」


 「……そうかい?気をつけてな」


 軽トラは俺たちを載せて出発する、まるで出荷か出入りだな。


 こうして神宮寺の野望は潰えた。後日、きちんと美沙姫さんと話し合って名付けは完了したとのことで俺にはボーナスが出た。めでたしめでたしだ。


 

 

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