大学編 第56話
有名な大きなテーマパークではなく、小さな遊園地。それでも俺達はとても今日という日をとても楽しんだ。
水無瀬さんも今日は体調を崩すこともなく楽しんでいたので内心はホッとしていた。
そんな楽しい時間もいつかは終わりが訪れる。
「……もうすぐ閉園だね」
「そうだな」
小さな遊園地なのでパレードみたいなものもなく暗くなった園内に僅かな灯りが見える。
「つばめちゃん、楽しかったね。今日は体調も良さそうだし、これからどこかでお食事して、私のお家に来て三人でお泊まりしない?」
蛍がそんな提案をするが、水無瀬さんは首を横に振って
「……うん、ありがとう蛍ちゃん。でも、もうすぐ魔法が解けちゃうと思う。楽しかった、本当に楽しかったよ……今日はきっと神様がくれた素敵な一日だったんだね」
今日の水無瀬さんを見ていたらそんな病に冒されているようには俺と蛍には見えなかったぐらい体調が良さそうだったが、気力でもたせていたのかもしれない。
「水無瀬さん、帰りは送るぞ」
「そうです、途中で体調を崩したら大変です」
「ふふ、大丈夫。帰りはタクシーで帰るから。それじゃ、タクシー乗り場まで一緒に行こう」
入園の時のように俺と蛍の間に水無瀬さんを挟み手を繋いだ。
「ふふ、またこうしてこの遊園地に来たいね、蛍ちゃん」
「そうですね、また来たいです」
まるで親子連れみたいに繋いだ手を振りながら歩く、端から見れば奇妙な三人に見えたかもしれない。
「もう、ここで大丈夫だから、あとは二人でデートの続きをしてね」
タクシーに乗り込む前に水無瀬さんはそんなことを言うが、これから二人でデートというのも少しだけ気が引けた。でもそんな俺達を見て水無瀬さんは
「蛍ちゃん、私との約束の為にも睦月君と仲良くしてもらわないと困るなぁ」
「もう、つばめちゃんたら……」
そう言って蛍は俺の手を掴んだ。そんな様子を見て水無瀬さんは満足そうに笑う。
「ふふ、睦月君。今日の蛍ちゃんは一味違うから!覚悟しててね!」
「何の事だ?」
何の事だか教えてくれる前に水無瀬さんの乗ったタクシーは扉を閉めてしまった。手を振る水無瀬さんに俺と蛍も手を振り返す。そしてすぐに水無瀬さんを乗せた車の灯りが遠くに離れていった。
「祭りの後みたいで少し寂しいな」
「そうですね、それじゃ帰りましょうか」
家に帰るまでがデートだということできちんと蛍を自宅まで送った。上がらせてもらって二人でお茶を飲んでいた時に思い出したので聞いてみた。
「そういえば水無瀬さんが今日の蛍は一味違うって言っていたけど何の事なんだ?」
「………………覚えてましたか。その、実はつばめちゃんとお揃いで買ったものはちょっと冒険したデザインなんです……」
俯いて恥ずかしそうに教えてくれた蛍、後は俺が必死に蛍を説得するだけだった。
苦労して目にしたものは今までの蛍の装備に比べてとても冒険心に溢れたもので、これからは心の中で蛍の事を『勇者』と呼ぶことにしようと決めたくらい大変満足でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます