大学編 第57話


 『……はぁ、はぁ。ねぇ、蛍ちゃん。今日のパンツの色は何色?』


 「……つばめちゃん、お願いだから普通に電話してよ」


 『てへへ、ごめんごめん。蛍ちゃん。今、大丈夫?』


 「大丈夫だよ、つばめちゃん」


 友人の水無瀬つばめちゃんから電話があった。昨日、遊園地に三人で行って、帰りに別れたつばめちゃんがきちんと帰れるか心配だったが、同じく心配した先輩が連絡先を交換していた執事の真木さんにもう着いているだろうと思われる時間に連絡してみたら


 『……お嬢様ですか?今はお休みになられてますが?』


 と返答されたとのことで二人してホッとしていたのだ。


 『……ねぇ、蛍ちゃん。昨日、私は遊園地に行ったよね?』


 「昨日、あんなにはしゃいでいたじゃないですか。忘れちゃいましたか?」


 『……そうだよね?夢じゃないよね?』


 「夢?何のことですか?三人で手を繋いで色々見て回ったじゃないですか」


 『……観覧車で蛍ちゃんが怖がったり?』


 「ううっ、高い所は苦手なんです」


 『……お化け屋敷に入るのを嫌がったり?』


 「お、お化けなんていないんです、ただ、あの雰囲気が苦手なんです……」


 『……睦月君がゲームコーナーのクレーンゲームで散財して、漸く取れたあの変なぬいぐるみは?』


 「変ですか?可愛くないですか?骨付き肉のぬいぐるみ」


 『可愛いかなぁ?……ってやっぱり私は遊園地に行ったんだね……』


 「勿論ですよ。つばめちゃん、ひょっとして寝ぼけてますか?」


 『ううん、大丈夫。ちょっと気になっただけだから……そうか、そうだよね。やっぱり神様っているのかもしれない』


 「神様?つばめちゃん、何のことですか?」


 『ううん、こっちの話。ふふふ、これは楽しみですよ、本当に私の願いが叶うかも!』


 「え、つばめちゃん?」


 『蛍ちゃん。私、頑張るから!かけっこだって速かったし、テストだって得意なんだから!どんな試練だって勝ち残ってやるからね!』


 よく分からないけど「頑張ってね」と伝えたら『蛍ちゃんこそ頑張ってよ!』と返された。


 「そうだ、昨日の写真をプリントアウトしたら持ってお見舞いに行こうと思うんですけど」


 『……あー、うん。すぐには無理かな。とりあえず蛍ちゃんが預かってて』


 「わかりました、それじゃ、また」


 『……うん、蛍ちゃん、ありがとう。本当に蛍ちゃんと睦月君に出会えて良かった』


 そう言って、つばめちゃんからの電話は切れた。

 それがつばめちゃんの声を聞いた最後になるなんて、その時の私は思ってもみなかった。

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