大学編 第48話


 「……くそっ、蛍。携帯の電源を切ったな!?」


 どういうことだと問い詰めようと電話をかけたが繋がらない。どういうことだ?これじゃ、まるで蛍が俺と水無瀬さんをデートさせようとしているみたいじゃないか。


 「……なぁ、水無瀬さん。これはどういうことなんだ?なんで蛍はこんなことを……」


 俺が水無瀬さんに目を向けたら、水無瀬さんは血の気が引いたような表情をして、額を片手で押さえていた。


 「……蛍ちゃん、本当に馬鹿なことして……でも、私のせいだ」


 あまりに水無瀬さんの顔色が悪くなっていたので「とりあえず、ベンチに座ろう」と連れて座らせた。


 「水無瀬さん、大丈夫か?……水無瀬さんは蛍がこんなことをした理由がわかってるのか?」


 水無瀬さんが落ち着いてから尋ねたら、水無瀬さんは潤んだ瞳で俺を見て、少し躊躇った後に告げた。


 「……蛍ちゃんはね、私が睦月君のことを好きになり始めていたことに気がついていたんだと思う」


 突然の告白だった。水無瀬さんが俺のことを?だからと言って


 「……でも、蛍がこんなまるで俺と水無瀬さんをくっつけようとするような真似をするなんてとてもじゃないが考えられない」


 もしかして俺は蛍に捨てられるのか?という気持ちになりかけていたときに


 「違うの!蛍ちゃんは睦月君のことが大好きだから、本当に!でも……」


 水無瀬さんは俯いて


 「……蛍ちゃん、私の命の残された時間が少ないって知っちゃったんだと思う」


 そんな重い話も告白された。今日は本当になんて日なんだろう……遊園地で俺と蛍と水無瀬さんの三人でいつものやり取りをするんだろうなと思っていたらこんなことになるなんて、俺だけが知らなかったのだろうか?


 「の、残された時間が少ないって……どういうことなんだ?」


 「……この前、睦月君に助けてもらった時のように段々と身体がいうことをきかなくなったきてるんだ。本当は入院してなくっちゃいけないんだけど、今日だけはってお医者さんにお願いして来たんだ、ちょっと強い薬を飲まされちゃったけど」


 そう言えば、上司の石井さんが水無瀬さんのことを話していたときに


 『……でも、彼女は何かご病気になって最近は表に出てこなくなったって聞いたけど、お身体良くなったのかしらね?』


 確かにそんな話をしていたがそんな命に関わる程だなんて思ってもみなかった。


 「……もう、残された時間は少ないから……蛍ちゃんは睦月君を私に譲ろうってしてくれたんだと思う」


 俺は呆然として水無瀬さんを見るだけだ。水無瀬さんは俺を見つめ返して


 「……本当は、こんな気持ち伝えずに終わろうって思っていたんだ。でも、やっぱり蛍ちゃんは凄いね、分かっちゃったんだ」


 水無瀬さんは少し考えた後に


 「……睦月君、これから二人で遊園地でデートする?それとも……ちょっと休憩できる所に行く?私のことは同情で抱いても良いし、身体だけが目的の遊びで抱いても構わないから。ホテルに行っても蛍ちゃんには『あの日はすぐに別れて帰った』って言えばバレないよ、たとえ蛍ちゃんが知ってもこんな真似した蛍ちゃんには責める資格がないもんね。睦月君の好きなようにして構わないから」


 水無瀬さんは何かを期待するかのように俺の目をじっと見詰めてきた。


 


 

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