大学編 第41話
「……また増えましたね」
我らが砦の『草壁荘』に住む先輩の穂積さんのお部屋にお邪魔したら溢れんばかりのエロの臭いがする。まるでビデオ屋の大人しか入れないエリアの暖簾を潜った時のような感じだ。
「そうかな?まぁ、いらないやつを俺に押し付けてくる奴もいるからな」
「……なるほど」
捨てるのに困ったら穂積さんに回収してもらうのか。
「睦月も借りてくか?」
「結構です」
こんなものを所持していたところを蛍に見られたら……生きて帰れる自信がない。
「そうか?借りたくなったらいつでも言ってくれ」
そんな穂積さんの好意を「彼女がいるので」と丁寧にお断りしたら
「え?彼女がいようとこれはまた別だろう?」
と言って、穂積さんは握った右手を上下していた、頼むからその手の動きはやめてくれ。
俺は蛍の手前、公式にはそういうことをしないことになっているのだ。但し、蛍が嘘発見器を用いるとか言い出した場合は土下座してでも勘弁してもらう所存だ。
「……入口の辺りに積み重なっているのはやたらと女教師ものが多いっすね」
「あっ、それか?お前の友人が置いてったものだぞ?」
「え?俺の友人って神宮寺の奴ですか?」
「ああ、彼女と一緒に暮らすからってさ」
そうか、神宮寺の奴は石井さんと一緒に暮らし始めるからこういうものは処分することにしたのだろうな。それで穂積さんの所に持ってきたのか。
「随分と別れを惜しんでいたぞ、長いこと手を合わせていた」
長いことお世話になりましたって針供養みたいだな。それにしても友人の性癖をこんなところで知ることになるとは思ってもみなかった……比較的理解できる嗜好で良かった。
「ははは、何人もの男達がここに立ち寄っているからな、俺くらいになれば顔をみただけで好みがわかるぞ」
……嫌なソムリエだな。
「睦月の好みも当ててやろうか?」
「勘弁してください」
穂積さんは笑いながら「それじゃ、飯でも食いに行くか」といつものラーメン屋に行こうと誘われた。穂積さんは普段この部屋で飯を食っているらしいが、さすがに俺はこの穂積さんの部屋で飯を食う気にはなれない。そんな気持ちを伝えたら
「そうか?慣れれば気にならんぞ」
などと穂積さんは言っていた。ある意味で大物だなと思ったと同時に絶対にそんな風にはなりたくないとも思ったことは口にはしなかった。
何故なら機嫌を損ねたらラーメンを奢ってもらえなくなるからだ!
いつもの汚いラーメン屋でラーメンと半チャーハンを食べながらたわいもない話をしていたら
「……でもなぁ、いつかは俺の部屋のコレクションも処分しなくちゃいけない日が来るんだよな……」
「……あの量を処分するって大変ですね」
「そうだよなぁ……だれか後継者はいないものかなぁ」
穂積さんはそんなことを言いながら俺を見たので無視した。そんな負の遺産はいらん!なんだろう、いつか穂積さんが草壁荘を去るときに残された住人達でババ抜きのジョーカーを押しつけ合うような姿が目に浮かぶ気がして頭が痛くなった。
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