大学編 第39話
「神宮寺、覚悟を決めろ」
「……わかってる」
☆☆☆☆☆
神宮寺と深夜のファミレスで向かい合って話している。神宮寺はずっと俯いていた。
神宮寺に呼び出され、何の話かと思ったら……できたらしい。
「……おめでとう?」
「……」
神宮寺 真一郎は俺の勤務先の上司の石井 美沙姫さんとお付き合いしている。学生の神宮寺と社会人の石井さんは年齢が十歳ほど離れているが仲良くお付き合いしていたはずで……
……仲良く男女の営みをすればそりゃできることもあるわけで……
「……きちんと避妊しなかったのか?」
「……美沙姫さんが、今日は大丈夫な日だって言うから……」
「……百パー大丈夫なわけないだろう?」
「……うぅ」
石井さんが妊娠したらしい、そんなことを石井さんから報告された神宮寺は「きちんとするから」とは言ったものの具体的なことは言葉にせず帰って来たらしい。その報告から数日たって俺に相談しに来たようだ。
「……きちんとするって言ったんだろう?結婚するってことじゃないのか?」
「……それしかないかな」
きちんとするってそれしかないだろう?神宮寺は腕っぷしは強いがこういうところがヘタレだ。
「石井さんは何て言っていたんだ?籍を入れようって?」
「……いや、何も言ってない」
「それじゃ、神宮寺の家族は何か言っていたのか ?」
女性が強い神宮寺家のお袋さんと妹さんが黙ってないと思ったのだが
「……知っているはずなのに何も言ってこない、それが逆に怖い……」
神宮寺がぶるぶると震えているが、おそらく夜風さんも紅花さんも神宮寺から言うのを待っているんだろうな。
「……まさか逃げようとか思ってないよな?」
「……そうしたらどうなると思う?」
質問に質問で返すなとは思うが、もし神宮寺が責任から逃げたら……
「……もう、この街にはいられないだろうな」
石井さんは悲しむと思うし、夜風さんと紅花さんは物理的に許さないだろう。
「……もし、俺が逃げたらお前はどう思う?」
「軽蔑する」
妊娠した女性を捨てて逃げるような男は最低だと思う。
「……そうだよな」
「なぁ、もう結論は出てるんだろう?一緒になるしかないってわかっているくせに」
なんだかんだで神宮寺の奴は石井さんが好きなんだから。
「わかってるさ、でも俺はまだ学生だぜ、大学を辞めて働くにも……」
確かに御両親に大学にいかせてもらってるのに途中で辞めるのはもったいないが……
「その辺りも石井さんやご両親に相談することだと思うぞ、一人で抱え込むな。先々を考えて助けてもらえるように頼み込む為の土下座なら俺はその土下座を格好悪いとは思わないぞ」
「……あぁ」
「俺も手助けできることあれば手を貸すからさ」
神宮寺の肩をポンと叩く、神宮寺は「ありがとう」と頷いたのでこれは大丈夫かなと一安心した。
☆☆☆☆☆
会社の会議室に石井さんに呼び出されて
「ありがとう」
とお礼を言われた、「何のことですか?」と尋ねたら
「ふふっ、真一郎君の背中を押してくれたでしょう?」
石井さんは嬉しそうに告げた、どうやら神宮寺の奴はきちんと責任をとることを宣言したようだ。
「……睦月君、もしかして私が婚期に焦って、計画して妊娠したとか思ってる?」
あえて妊娠して、神宮寺と結ばれる計画だったのでは?と、ちょっとは考えなくもなかったが
「いいえ、神宮寺の奴は石井さんが好きだからいずれは一緒になっていたと思いますよ」
そう答えたら、石井さんは「そ、そうかしら」と珍しく照れていた。
「でも、神宮寺はちょっとヘタレる所があるから……もし、逃げていたらどうするつもりだったんですか?」
「ふふ、そうしたら一人ででも育てるわよ」
石井さんはいとおしげに自分のお腹を撫でていた、もう既に「母は強し」という言葉が似合う表情をしていて「男は女性には永遠に勝てない生き物なのだろうな」と思わされた。
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