大学編 第27話
お風呂に入ったらあとは寝るだけ、私のベッドにつばめちゃんと二人で横になる。勿論、すぐに寝つけるわけもなく、二人で色々なお話をしていたら。
「そういえば、この前、学食で睦月君に会ったよ、一人でカレー食べてた」
「そうですか」
「睦月君をチラチラ見てる女の子がいたから私が目の前に座ってガードしておいたよ!」
「……ありがとうございます」
私の声色からちょっと微妙な気持ちを察したのだろう、つばめちゃんが「まさか、私と睦月君がどうかなっちゃうとか心配してる?」と聞いてきたので「……お二人を信じてます」とは返事をしたのだがやっぱりモヤモヤとしているのを感づいたようだ。
「……ねぇ、蛍ちゃんはなんでそんなに睦月君の浮気を心配するの?まさか前科が?」
「いえ、そんなことはないのですが……」
「じゃあ、何でそんなに?」
「……これは本当に先輩には内緒で、絶対に内緒ですよ?」
「うん、約束する」
つばめちゃんが真面目な顔で答えたので、私はずっと秘めていたことを告白する。
「……先輩と初めて結ばれた日に思い知らされたことがあるの。あぁ、先輩は『初めて』じゃないんだなって」
「えっと、それはその……ドーテーってやつじゃないってこと?」
「……はい」
初めて体を重ねたあの日、私は肌感覚で『あぁ、先輩は初めてじゃないんだな』って気がした。どうしてと聞かれても『そんな気がした』としか答えられないが……。後々考えても、やはり初めての男性にしては手際が良すぎたと思えるのだ。
「睦月君は蛍ちゃんと付き合う前に彼女がいたの?」
「……いいえ、私が初めての彼女だって言ってました」
「……それじゃ、まさか、エッチなお店に行ったとか?」
「……多分、違うと思います」
先輩の叔母の榊 瞳さんからそんな悪い遊びができるような余計な生活費は渡していないと聞いていた。それというのは先輩が遠慮してあまり高額なお金は受け取っていなかったらしい。
「まさか、ゆきずりの女とか?」
「……」
「そ、そんなはずないよね!睦月君、真面目だし!」
「……はい」
「それじゃ、男の子が大好きなエッチな教科書で勉強したんじゃないの?」
「……勿論、それはあると思います、実際に以前は持ってました」
「あっ、やっぱり持ってたんだ。睦月君も健全な普通の男の子なんだねぇ。じゃ、それで決まりだよ!」
「……そうでしょうか」
あの時、感じた気持ちも、今、改めて考えても、やっぱり先輩はどこかの誰かとそういう行為をしたことがあるんだろうなと私の中では確信している。しかも、ひとりふたりではないような気がして……モヤモヤするのだ。
私が考えこんでいるのを見て、つばめちゃんは
「……蛍ちゃん、睦月君が以前、肉体関係のある女性がいたから嫌いになるの?」
「そ、そんなことないです!」
「それじゃ、睦月君が蛍ちゃん以外の女性と肉体関係があったのはズルいから、蛍ちゃんも睦月君以外の男性と肉体関係をもって当然だとか思ってる?」
「そんな訳ないじゃないですか!つばめちゃんは何を言ってるんですか!?怒りますよ!」
「うん、蛍ちゃんが睦月君と出会う前の睦月君も独り占めしたいのはわかるけど、それは無理なんだよ。蛍ちゃんと出会う前の睦月君の人生があるから今の睦月君がいるんだから」
「……はい」
そんなことはわかっている、でも気にしてしまう。そんな私は嫉妬深い、重い女なのかもしれない。こんなことは絶対に先輩に知られたくない。
「ふふ、睦月君はもうこの先は蛍ちゃんだけとしかそういうことはしないと思うからこれまでどんな女性と何かあったとしても許してあげなよ?」
「……わかってます」
でも昔の女性の方が、私より綺麗だったのでは?とか考えたり、私より胸が大きかったのでは?とか落ち込んだり、先輩に内心では比べられているのではないのかと不安な気持ちが何処かにあるのだ。
「むぅ、本当に睦月君は罪作りだねぇ……」
「つばめちゃん、大丈夫ですから。先輩が本当に私のことを思っていてくれることはわかってますから」
「うん、それは私も保証できる。蛍ちゃんは色々と難しく考えすぎなんだよ!たとえ睦月君に昔の女がいたとしても今はそんなホースボーンな女はいない……そんな睦月君を手放したような女に蛍ちゃんの愛は負けないよ!そんな睦月君をポイって捨てるような女に!」
「……そうですね、先輩は捨てられたのかもしれません、そう考えたらちょっと可哀想です……」
「雨の日、段ボールの中でニャーニャーと泣いている睦月君を蛍ちゃんが拾ったんだね……」
「ふふ、随分と大きな猫さんですね。つばめちゃん、ありがとうございます。ちょっとは先輩の昔の女性関係の悩みが晴れたような気もします」
「そう?それじゃ、次は……」
二人の女の子だけの内緒のお話はまだまだ続いた。
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