ここで会ったが


 「……紫音の馬鹿!帰ってきていたなら会いに来なさいよ!ずっと心配していたんだから……もう、本当に馬鹿なんだから……」


 「……ごめん、百ちゃん……」


 「……もう、良いわよ。こうして、また会えたんだから……元気にしてた?」


 「……うん、しばらく海外に行っていたんだ……鳴海先輩から聞いてる?」


 「……先輩たちから聞いたわ、出発前に鳴海先輩に会いに行ったんだって?」


 「……うん、公園に行ったら小さな女の子を連れた、お腹が大きくなっていた鳴海先輩と会えたよ」


 「……先輩の家は一姫二太郎らしいよ。その時、お腹にいた子は男の子だって」


 「……うん、実は海外で大学に通ったら、そこに先輩のおば様がいて……その男の子の写真も見せてもらったんだ、若い頃の睦月先輩に似ていたよ」


 「……紫音、先輩を忘れたくて海外にまで行ったのに先輩の親戚と出会ってしまうなんて……本当にね」


 「……ふふ、本当に先輩は罪作りな人。それはそうと百ちゃんはどうだったの?結婚して……」


 「……どうって、普通よ?結婚して、子宝にも恵まれ、浮気もされ……喧嘩して、仲直りして、でも浮気したことは一生許さなかったけど……結局、旦那は先に逝ってしまったわ」


 と旧姓、草下部 百は笑った。その話を聞いて親友だった、いや、また再び親友に戻った市井 紫音は怒ったり、笑ったり、泣いたりした。


 「……もう、紫音ったら相変わらず泣き虫ね」


 「ごめんね、百ちゃんがそんなに辛いときに傍に居なくて……」


 と紫音が泣きながら謝ったら、百は「……まぁ、私は子どももいたから大丈夫よ」と紫音を慰めた。


 「……ふふ、そう言えば知ってる?さっきのお話に出てた睦月先輩の息子さんのお話……」


 「……へー、同じ高校だった女の子と結婚したの?まるで睦月先輩と鳴海先輩みたいだね」


 「ふふ、もっと色々なお話があるんだから……聞きたい?」


 「……勿論!あぁ、でも、そろそろ……」


 そんな話をしていた二人に一人の女性が近寄ってきた。老人介護施設の職員のその女性は


 「はい、百さん、紫音さん、そろそろ御食事の時間ですからね。あちらに移動しましょう!」


 と言って、車椅子に座る百を後ろから押し始めた、市井 紫音はその後ろ姿を追うように杖をつきながら、ゆっくりと歩き始めた。ふと、つけっぱなしのテレビを見たら、女性としては日本初となる内閣総理大臣が就任した際の最初の会見での一言


 『お父さん!見てる!?漸くここまで来れたよ!!』


 という彼女の発言がニュースで取り上げられていた。そんなニュースを横目に見ながら紫音は笑顔を浮かべた。


 「……本当に、人生は思いもよらないことが起こって面白いね。まだ、時間はたっぷりあるから、それぞれの歩んできた道のりの事をいっぱいお話しようね、百ちゃん……」


 そう呟きつつ、前を行く親友を眺めた。



FIN

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