金の草鞋と針の筵


 『憧れのお姉さん』に告白し、そして失恋した。それは仕方ないことだ、年齢も離れているし、学生の自分では一人前とは言えない身分だし。寧ろ、今でも旦那さんのことを想っている瞳さんの在り方に……やっぱり素敵だなと思ったくらいだ。


 ……問題は、鳴海家に滞在している瞳さんが居間に一人でいるときを狙って告白したのに、何故かソファーの裏に隠れるように座っていた姉だ。普段はそんなところに座っていたことないだろう!?姉の存在に気付かず初めての告白をした俺は……もう姉の玩具だった。


 ……姉はまず両親に報告した、とても良い笑顔で。父さんと母さんは比較的好意的だった。


 「……まぁ、創の名前は叔父さんの名前の『創司』から貰った名前だから、瞳さんを好きになったのも仕方ない気もするな」


 と父さんが言えば、母さんは


 「……創ちゃんの初恋だもんね、お母さんは一途で良いと思うわ」


 と姉さんみたいに笑うことは無かった。


 問題は姉さんと俺の共通の知人にも嬉しそうに広めたことだ、やはり鳴海 燕という姉は「魔王」だと再確認した。


 幼馴染みの衛藤 玲楓は


 「……創ちゃん、私は創ちゃんがマザコンでも、熟女好きでも気にしないからね!」


 と訳のわからないことを言う、瞳さんは熟女なんかじゃないぞ!?お姉さんだ!!


 一つ後輩の神宮寺 月香さんは


 「……創さん、創さんがご立派に成長なされたのも私のお陰なんですから……もう少し私にご褒美があっても良いと思うんですが?」


 と、ジト目で圧をかけてくる。月香さんのお陰ってなんだろう?ちょくちょく背中を触ってくることか?あれ、くすぐったいんで止めて欲しいんだけどな。


 最大の問題は、俺が母親よりも年上の女性に告白したことを知った、月香さんの母の紅花さんが顔を赤らめ、満面の笑みで


 「あらあらあら、創さんは大人の女性がお好みなんですね!勿論、素晴らしいことですわ!昔から『年上の女房は、金の草鞋を履いてでも探せ』と言いますから!……創さん、うるさい娘の居ない時にこっそり私を訪ねてきても構わないですからね?」


 と紅花さんが嬉しそうに言い出したことで、月香さんは


 「……お母様?少し道場でお話しましょうね?」


 と能面みたいな表情で紅花さんを引き摺って行くし、玲楓は俺のシャツの襟元を掴み、ガクガクと揺らしながら


 「は、創ちゃん!何なの!?あの人たちは!?どんどん増えていくじゃない!!私という者が在りながらぁぁ!!」


 と大騒ぎだ。お願いだから失恋の傷を癒す時間をください……


 俺の唯一の癒しは部屋の机の上に飾ってある瞳さんとのツーショットの写真だけだ。早く部屋に帰りたい……

 

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