第83話


 あっという間に残りの日々が過ぎ、旅立ちの時だと……卒業式が行われた。


 「……山吹先生、お世話になりました」


 この老教師には進路のことなど相談にのってもらい、夜間の大学に行きつつ働ける勤め先など先生のツテを利用させてもらった。


 「卒業おめでとう、元気に頑張りなさい……」


 頭を下げ挨拶を終えると、元生徒会長の御劔が話しかけてきた。


 「……あの時はすまなかった。本当に鳴海さんと真剣に交際していたんだな……余計なお世話をして申し訳ない」


 「……いや、あの時があったからきちんと蛍と向き合えた気もする、こちらこそ蛍を心配してくれてありがとう」


 礼を言う俺を見て御劔は眼を丸くして


 「僕は君を誤解していたのかもしれないな……もっと早くきちんと話していれば良かった」


 少し残念そうに「それじゃ」と言って去っていった。


 帰ろうかと考えていたら一年生の草下部と市井が近寄ってきて


 「先輩、卒業おめでとうございます」


 と話しかけてきてくれた。


 「ありがとう」


 と答えたら、市井が「……先輩はいつ引っ越すのですか?」と聞いてくるので日にちを教えたら「お見送りに行きます」というので「無理しなくても良いぞ」と言った。多分、社交辞令だろうとは思う。


 「……それじゃ、二人とも元気でな」


 そうして後輩二人と別れ自宅に帰る。自宅のアパートを開けると合鍵で先に入っていた蛍が出迎えてくれる。


 「……お帰りなさい。先輩、卒業おめでとうございます」


 「ただいま、ありがとうな」


 卒業祝いを俺のアパートで二人っきりで行うことになっていたので、蛍がご馳走を作って待っていてくれた。そのご馳走を囲みながら蛍と談話する。


 「……もうすぐ一、二年の学年末試験だな。蛍は勉強大丈夫か?」


 「……はい、私なりに頑張ってます」


 「もし良ければ俺の使っていた参考書とか持っていっても良いぞ?ぼろぼろだから要らなきゃ捨てちゃうし」


 「……いえ、頂いて行きます。ぼろぼろなのは先輩の努力の証ですから……これを見て私も頑張ります」


 「……そうか、頑張って。あぁ、あとこれはホワイトデーが試験期間中だから渡せないかなと思って先に渡しておくな」


 そう言って買っておいたキャンディーを渡す、きちんと意味は調べた。ここで知らずにマシュマロを渡していたら大変なことになっていたところだ。


 「ありがとうございます、試験が終わったらまた先輩のお家に遊びに来ますね」


 「あぁ、また一緒に遊ぼう」


 ご馳走を食べ、蛍を家まで送ってから夜間のバイトに行く、この街を離れるまであと半月、つまり蛍と離れ離れになってしまうのもあと半月だった。


 



 


 

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