第53話
恋人になった蛍との初めての夏休み。
海に行った時の水着姿……最初は恥ずかしがってパーカーを脱いでくれなかったけど、二人っきりの時に見せてくれたワンピースの水着姿も可愛かった。
そして、その水着に隠れていた所を初めて見せてくれた、からだを重ねた日も……
そんな風に、二人で幸せな日々を過ごしていた俺に最大の試練が訪れた。
「……ほ、蛍、本当に大丈夫かな?」
ヤバい、どんな相手を敵に回してもこんなに怯えたことなんてないのに……
「……先輩、大丈夫ですから……」
震えている俺の手を蛍が握ってくれる、そうして漸く震えが止まる。俺がここまで恐れる相手とは誰かというと……
「……先輩、うちの両親が彼氏を一度くらい連れてきなさいっていうんですけど……」
「……モ、モチロンゴアイサツニウカガイマス」
蛍のお宅に初めて訪問しご両親にご挨拶する……なんて絶体絶命の危機!!
お土産を用意し、蛍に案内され伺う住宅地の一戸建て……難攻不落の城の様に見えた。
「あらあら、いらっしゃい」
蛍のお母様は小柄な蛍より背が高かったがそれでも何処と無く蛍の母親だなって雰囲気がある。
緊張しつつ玄関でご挨拶して中に案内され居間に入ったら
「……いらっしゃい」
そこにこの城の主人がいた、小柄で細身の蛍のお父様だ。緊張しつつご挨拶をし、お母様の用意してくれたご馳走を四人で食べた。
「蛍ったらねー、いつも……」
「お母さん、余計なこと言わないで!」
蛍とお母様はいつもこんな感じなんだろうって会話をし、お父様は寡黙に食事をしていた。
「……男同士で少し話がしたいんだが……」
「はい」
食後にそう話しかけてきたお父様。心配そうな蛍に目配せして蛍のお父様と庭に出る。
「……蛍はうちの一人娘なんだ、あの子は小さな頃は病弱でいつも心配して……とても大切に育ててきた可愛い娘なんだ……。そんな娘がある時から暗くなって……学校で何かあったのかいって、うちのと聞いても『なんでもない』としか言わないで……」
あの頃の蛍を思い出すようにお父様が話す。
「……いつか娘が何処か遠くに行ってしまうんじゃないかって心配していた時に……君が娘の前に現れたんだね」
真剣なお父様の目を避けること無く見詰め返す。
「……君が娘を救ってくれたこと、本当に感謝している。ありがとう……でも親として娘の彼氏がどんな男かって気になるのは仕方ないだろう?……だから噂だけでも……と調べた」
……本当に頭を鈍器で潰されたんじゃないかと思った。何も返事できずにいると
「……君が事件を起こしたことなどおおよそ知っているよ………………それでも娘が信頼している男だから……君を信じたいと思う、どうか娘に悲しい想いをさせないでほしい」
そう言ってくれたお父様に俺は
「……蛍さんに悲しい想いをさせないように大切にします、蛍さんに相応しい恥ずかしくない生き方を必ずします」
一筋の涙を流し、頭を下げ誓った。
「……先輩、お父さんがなんか先輩に失礼なこと言いませんでしたか?」
鳴海家からの帰り際に蛍がそんなことを聞いてくる。
「……失礼なことなんて何もないよ、優しいご両親じゃないか」
「……ありがとうございます」
両親を褒められ喜ぶ蛍の頭を撫で
「……蛍、これからも宜しくな」
「……はい」
蛍と蛍のご両親の想いを裏切らない進路をと心に決めた。
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