第34話


 昼休みに待ち合わせ場所の空き教室で蛍を待っていたのだが……10分待ってもやって来ないので心配になって蛍の教室まで様子を見に行ったら、蛍はお弁当箱の袋を抱えたまま知らない男と話をしているようだ。もし絡まれているなら何か言ってやろうと近付いたら蛍がこちらに気づいて慌ててこちらにやってきた。


 相手の男は俺を一瞥して……何処かに行ってしまった。


 「……蛍、大丈夫か?絡まれてたとかなのか?」


 「……絡まれていじわるされた訳じゃないです。この前の先輩とのお出かけの日に街で私を見かけたよって田中君に話しかけられました……」


 それだけか?まぁ蛍がいじめられるわけじゃなく他の学生と話ができるようになるのは本当は喜ばしいことのはず……なのに何故だろう他の男と話している蛍を見たらなんかモヤモヤした。


 田中という男を次に見たのは彼が何人かの女生徒に囲まれて話をしているところだ、田中はかなりのイケメンで女生徒達は皆、田中目当てなんだろう……熱い眼差しで田中を見ていた。モテる男は違うな……やっぱり蛍もああいうイケメンが好きなんだろうか?なんて思った。


 そして放課後、蛍と一緒に帰ろうというとき、蛍の教室まで行ったら……また田中が蛍に話しかけていた。蛍がクラスメートと話をする……当たり前のことなのにやっぱりモヤモヤした。


 「……蛍」


 俺が来たことに気付いたら蛍は田中に頭を下げてこちらにやって来た。


 「……先輩、お待たせしました」


 「……あぁ、話し中だったんじゃないか?大丈夫か?」


 「……大丈夫です、帰りましょう」


 蛍と二人並んで帰宅するが……やっぱり気になって


 「……さっきの田中って奴となんの話をしてたんだ?……いや、言いたくなければいいけど……」


 「……街で見かけた時の格好の方が良いね……とか言われました」


 そう言う蛍を見る……今は黒縁メガネに制服姿のどちらかというと地味な装いで。この前、街に出掛けたときはコンタクトで薄くお化粧もして短いスカートな……お洒落した姿だった。……なるほど蛍はその姿を見られて田中に気に入られたのかもしれない。


 「……先輩、どうしましたか?」


 「……いや、なんでもない」


 これ以上、田中の話題を蛍とするのが嫌だったので逃げるように話題を変えた。


 俺が最後に田中を見たのは……男子トイレの小便器で用を足しているときに他の便器も空いているのに隣に田中が並んできたときだ……なんかじろじろと視線を感じたがこちらから話しかけるような関係ではないので終わったら普通に便器から離れたら……「マジかよ……」って田中の声が聞こえたが……なんだったんだ?


 その後、蛍を教室に迎えに行っても田中を見ることがなくなった。


 「……なぁ、蛍。そう言えば前に話しかけてきてた田中って……最近は話しかけてくるのか?」


 って聞いたら


 「……田中君ですか?最近は……学校に来てないみたいです」


 どういうことだと詳しく聞いたら……どうやら田中は取り巻きの女生徒の一人を妊娠させ……田中とその女生徒は学校に来なくなったらしい。噂では田中は他の女生徒にも手を出していて……結構大変なことになっていたようだ。


 「……大変だな、そう言えば蛍は田中に誘われたりしなかったのか?」


 「……休日、二人で遊びに行こうって言われました。でも先輩と約束があるので駄目ですってお断りしました」


 なんかそうしたら田中は「やっぱり大きい方がいいんだ……」とか呟いていたそうだが……


 「……田中君も先輩の方が人としての器が大きいって理解してくれたんだと思います」


 蛍はそんなことを言うが本当か?俺は田中と話したことも無いのに……


 「……でもさ、蛍は良くあんなイケメンに誘われて断ったよな」


 って言ったら不思議そうに


 「……先輩の方がイケメンじゃないですか……」


 なんてお世辞を言ってくれる、蛍の優しさが身に染みたので缶ジュースを奢ってやった。

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