第3話


 放課後になって直ぐに帰ることもなく校舎内を物思いに耽りながらうろうろしていた。

 ……どうしてこの時に戻ったのだろう?神様ってのがいるならどうして俺みたいな奴をそのまま死なせてくれなかったのだろう……また同じろくでなしな人生を送れというのだろうか?


 そんなことを思いながら校舎裏に出たら……懐かしい顔と、その関わりの始まりの場面に出くわした。あぁ、もしかして神様はこれをやり直せって言ってるのか?


 出くわしたのは後輩の男女数人が一人の少女を囲んでいる場面、どう見ても仲良く遊んでいるとは思えない嫌な光景だ。うつむいて震えているのは死ぬ間際に思い浮かべた小柄な少女だ、少女は靴を履かずに靴下で地面に立って囲まれている。


 キャハハハと周りの奴等の嫌な声……そうだ、だからあの時も余計なお世話だと思いつつ関わったんだ……


 「楽しそうだな、俺も混ぜてくれよ」


 そう声を掛けると後輩の奴等は驚いてそして怯えるような顔をしていた。俺の噂は後輩にも広がっている様だ。


 「いや、先輩……なんでもないっすから……」

 「仲良く話してただけっすから……」


 そんな言い訳をしてくるが、弱いものいじめだってわからない訳ないだろう?だから……


 「なんだよ、混ぜてくれないのかよ……じゃ、コイツくれよ、俺が遊ぶから」


 そう言ってなるべく悪そうに笑って真ん中の少女を指し示す。少女はビクッとして更に下を向き、周りの後輩達は顔を見合わせ苦笑いで「いいっすよ、それじゃ先輩失礼します」と逃げるように少女の靴を放り投げ立ち去った、まぁどうせ行った先ではこの件に関してろくでもない話をしているんだろうけどな。俺は靴を拾い少女に渡した。

 後輩達が立ち去って残されたのは俺とうつむいた小柄な黒縁の眼鏡の少女だけだ。

 

 この少女も俺のことを知っているのだろう、先程の台詞を聞いて真っ青な顔でうつむいて震えている。

 だからなるべく優しい声で話しかけてやる。


 「大丈夫か?いじめられてるんじゃないかって声を掛けたんだが……余計なことをしたか?」


 その声を聞いて少女はこちらに顔を向けた、それでもまだ緊張して声は出せないのか顔をぶるぶる横に振った。


 「そうか、余計なことじゃなかったなら良かった。なぁいつもこんな事があるのか?」


 少女は泣きそうになりながら軽く頷く。


 「そうか……友達とか……誰か助けてくれる人もいないのか?」


 少女は口を尖らしてまた軽く頷いた。今は少し涙が流れていた。


 そう……だから以前もこんな話を持ちかけたんだ。


 「じゃ、俺とつるんでることにしな、そうすればああいう奴等は手出ししなくなるから」


 そう言ったら少女は驚いた顔をして少し考えて


 「……………………はい」


 と小さな声で返事をしたのだった。これが以前の記憶では可哀想な短い人生を送った鳴海蛍(なるみほたる)との出会いの場面だった。

 

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