ヒーロー様のお守りやってます。
夕鳴なち
第1話
突然だが、俺はハゲだ。いいや、これでは誤解を招かねない。訂正する。“今日”の俺はハゲだ。何を言っているんだ、と思っただろう。それは正しい反応だ。聞いてくれ、俺の身に降りかかった悲劇を。
時は、昨日に遡る。昨日は日曜日だった。普通に社畜をし、普通に生きていた俺は、朝からスーパーに出掛け、食材を調達し、家に帰って来たんだ。
「よっと。」
冷蔵庫に買ってきた物をしまい、ゲームでもするか、と振り返った俺の視界にはダンボールが。
は?誰だよ、こんなところに置きっぱなしにしたのは。俺か。……俺か?
まあ、いいや、と俺はダンボールをたたみ始めようとした。そのときだった。
「なななんとー!」
バカみたいな声が聞こえた。言っておくが、俺は一人暮らしだ。残念ながら、彼女もいない。つまり、この声の主は不法侵入者か、人間じゃないイキモノのどちらかだ。
果たして、それは後者だった。体長は20cmくらいで、水色の髪をツインテールにしている。服はピンクと白の、いわゆるロリータな感じ。なんとも目に優しくないカラーリングだ。
今思うと、なぜ驚かなかったのだろうか。フリでもいいから驚いて、窓から投げ捨てるべきだった。ともかく、その時の俺はどうかしていた。そう、あろうことか返事をしてしまったのだ。
「何なんだよ。」
ソレは、悲劇のミュージカルヒロインのような身振りで言った。
「ボクがやっとの思いで建てたマイホームを!マイホームを!なぁにしてくれちゃってんですかぁ!?」
「は?」
「ボクがやっとの思いで建てたマイホ「いや、聞こえてるから。」
「では、どーしてくれるんですか!?」
「いや、どうもこうもねぇよ。勝手に人んちの中にマイホーム建てんなよ。つーか、ただのダンボールだったじゃねぇか。」
「いいえ!あれは、ボクが苦労して見つけたベスト・オブ・マイホームです!大変だったんですからね。戸棚の中はごちゃごちゃしてるし、ベットの下は低すぎるし。」
「ひょっとして、俺のポテトチップス食ったのはおまえか。」
「うす塩も悪くはないないですけど、のり塩のがいいですね。」
「ベットのしたの本は?」
「気に入ったページがあったので、そこだけ破っていただきました。」
「おまえふざけるなよ!あのページ俺も気に入ってたのに!!」
そんなこんなで、最近の悩みだったボケは、本当はボケではなく、こいつのせいだということがわかった。
「はぁ、今までのことは全部許してやるから早く出てけよ。」
なんだか疲れた。昼寝でもするか。
「ハァ?許すぅ?ボクは許してませんよ!」
「あ?」
「ボクのマイホームを勝手に取り壊したの、許してませんよ!」
ただダンボールを潰しただけじゃねえかよ。こいつ、マジでめんどくさい。
「あぁ、悪かったよ。悪かった。」
「あなた今謝りましたね?」
「謝ったよ。だから出て「では、謝罪の品を!」
「ハァ?」
「謝罪の気持ちを形で表してください!」
本当にめんどくさい。
「はぁ、何が欲しいんだよ?のり塩味のポテチでいいか?」
「では、この部屋を。」
「は?」
「あなたの住んでいるこの部屋をボクによこしなさい。」
……もう付き合ってらんねぇ。ほっとけばそのうち飽きていなくなるだろう。
そして、俺は一日中そいつを無視し続けた。
翌朝、つまり今朝の話だ。洗面所で俺が見たのは、世にも恐ろしい光景だった。俺の頭に毛が無い!!正確には少しはある、ってそういう問題じゃない!
「何なんだよ。」
泣きそうな俺の目に、鏡越しに得意げな顔をしたヤツが映った。
「おまえか?お前なのか!?俺に何をした!?」
ヤツの顔がとてつもなく憎らしい。
「ふふん。隣の部屋の方と髪の毛を交換させていただきました。ボクのことを蔑ろにするからですよ。」
隣の部屋の人といえば、幸が薄そうなオジサンだ。確か、髪の毛も薄かった。
「戻せよ!俺の髪!」
「謝罪の品をよこしなさい。」
「部屋は無理だ。何か他のにしてくれ!」
「仕方がありませんねぇ。部屋が無理だと言うなら、身体で返してもらうしか。」
「……胸を隠さないでください。誰があなたなんかの。ちょっとやってもらいたい事があるんですよね。」
俺はもう必死だった。
「わかった。やる!それをやるから!!」
「やるんですね?」
「あぁ!だから戻してくれ!」
そいつは、少し間を空けていった。
「5時間以上寝ないと無理なんですよねぇ。」
これが今朝の出来事だ。
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