第7話 不仲の要因
竹千代は思い切って父と祖父に確認してみることにした。なぜ父は家臣団から蔑ろにされているのか。父と祖父の口論が良く聞こえてくるのはなぜか。それがはっきりしない限り家督を継いでも同じことを繰り返すと思ったからである。
「父上、それに御爺様、家督を継ぐに尽き、改めて教えて頂きたい事がございます。」
一気に全ての事を聞きたい気になったが、ここは順を追って確認すべきであろう。どの話から聞くべきが多少思案した。逡巡した挙句出た言葉は、
「まずは良く御爺様と父上がよく諍いをしているように思われるのですが、如何様な理由が御座いますでしょうか?」
と家族内の事であった。
道閲はにやりとした。父の表情はあまり変わらない。
「これから申すことは安祥松平のみならず三河の松平一門やその他家臣含めて、ここれより後の我らの盛衰を左右するものになる。その覚悟は竹千代にはあるか?」
暗に家督を継ぐ覚悟はあるのかという事にもなる。今更、家督を継ぐつもりはないわけでは無かったので勿論承知の上である。ただ、些か緊張した。
「勿論で御座います。嫡男であるゆえに、幼少よりその覚悟は御座います。」
道閲、並びに父は満足したような表情である。
「それでは申すが、それは岩津殿との関係に関してなのじゃ。竹千代も承知かと思うが、安祥は岩津殿の分家筋に当たるのじゃが、儂が家督を継いだ後に岩津殿の衰微が甚だしく、宗家と認めない一門も増えだしたのじゃな。儂は家督を信忠に譲ったのちは岩津殿から松平一門を統帥する事を譲り受けるつもりだったのじゃがなが、信忠がそれは仁義に反すると言う訳なのじゃ。」
信忠は姿勢を正し、
「安祥松平の安寧を考えればこそ、秩序を保つことが肝要と考えますればこそに御座います。我々が岩津殿を盛り立てる事により、三河の繁栄が約束されるのだと。」
「このような口論が竹千代が生まれてからも治まることが無く、今まで続いている次第じゃ。儂としても安祥を信忠にしっかり守ってもらってこその宗家という立場であるべきと考えておるのでな。ただ、既に大勢の一門は暗に安祥こそが一門の棟梁という扱いになってきておる時勢もあり、そう望む雰囲気があるのじゃ。」
「父上、それは安祥の松平というより父上個人への尊敬によるものと、私は思うております。なればこそ身上には宗家棟梁という重責を担える器には御座らんと思うておるのです。」
家臣たちが父を侮るのは、此処に要因があるのかもしれないと思った。道閲に比べれば覇気と呼ばれるものがないのであろう。
竹千代は、安祥松平が岩津に成り代わって宗家という立場をとるべきなのか、父上のようにあくまで岩津を盛り立てようとするのか、どちらが良いのかは未だ判別はつかない。
「その時々においていろいろ父上とは争論しておるのじゃが時折激昂することもあってな。それがお主の耳にも入って居るのじゃろう。不仲というよりは意見の相違があるんのじゃ。」
祖父と父は確かに常に喧嘩をしているわけではなく、また無視をし続けているというわけでもなかった。
「竹千代はどうじゃ、どのようにすべきだと思う。」
「すぐには結論はでませぬ。」
「そうか。どのみち、儂も信忠も家督をそちが継承した暁にはその方針に従う次第であるのじゃ。じっくりと考えるが良い。」
竹千代には三河松平一門の棟梁となる覚悟はあるのだろうか。安祥松平の家督だけでなないのである。今すぐに結論を出す必要が無いのかも知れないが、岩津にとって代わるならば早く決断した方がよいのであろう。とも思う。しかしこの場で決める必要もないと思い此処はいずれ答えを出すことにした。
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