バタフライラインの報復

ちびまるフォイ

これを読み切れば、PVが上がり、俺が消える

『なんか、壁から光の線が伸びてるんですけど見えません?』


『あ、お前見るのはじめて?』

『知ってるんですか』


『これバタフライライン。

 ここでなにか行動したときに

 光の線に連動したものが動くんだ』


『へぇ』

『触れてみろよ』


壁から伸びる光の線に触れてみる。

光がどこかの犬のくしゃみにつながっているのがわかった。


『えっと、ここでもし俺が壁を叩いたら……』


『遠くにいる犬がくしゃみする』

『しょうもない!!』


といっても、毎日やることもなくぶらぶら漂うだけの日々。


蝶の羽ばたきが別の場所で竜巻になるように、

自分が起こした小さな行動が大きな影響を及ぼすのなら

多少はマシになるのかもと思った。


『面白いバタフライラインないかなぁ』


町をはじめ、家や、動物、人間にまでバタフライラインは接続されている。

なにかしら小さなイタズラをするとラインにつながった連動先が動き出す。


『あれは!?』


暇つぶしにテレビのスタジオへ遊びにいったときのこと。

ゲストに来ていた女優の背から、つながっていない光のラインが見えた。


未連動のバタフライラインを掴むと、

ほかのバタフライラインにくっつけることができた。


俺がどこかのカフェの看板を倒すと、

まったく別の場所で雨漏りがするというライン。


そこに女優のバタフライラインが接続された。


スイッチであるカフェの看板を人のいないタイミングで倒した。

これにより、どっかの部屋で雨漏りが起きる。


雨漏りを理由に入居人が出ていくと、

修理のあと女優がそこへ引っ越してくるようになった。


一番驚いたのは自分自身だった。


『すごい! バタフライラインにこんな使い方があるのか!』


単にイタズラする程度のものしかないと思っていたが

うまく接続さえできれば人の行動を暗に操作できる。


それがわかったとき、頭に思いつくのは小学生レベルの理想だった。


『俺の理想の王国を作ってやるぞーー!!』


すでに接続済みのバタフライラインも、

本気で力を込めればぶっちぎることができる。


けれど、始点と終着点を変えることはできなかった。


看板を倒すと雨漏りが発生する、というのを

トイレを流せば雨漏りが発生する、にできるが

トイレを流すと地球が爆発する、にはできない。


『地球のバタフライラインでもあればいいのに……』


美女が俺のいる近辺に密集するなんていうラインはない。

なので、そっちの方面に誘導するしかない。


雨漏り+女優→引っ越し というように、

少しづつ理想の形へと誘導していった。


『ここで電気を点ければ、新しい法律が作られるはず』

『ここでガラスに手を押し付けると、全裸が日常に近くなる』

『ここでテレビを消すと、話がまとまりやすくなる』


俺の一大イベントは広範囲に及んだ。


大それた偉業を成し遂げるために、

あらゆる場所でさまざまなバタフライラインを連動させていった。


外堀に外堀を埋めまくって、

ついに理想へと至るバタフライラインが完成した。


『長かった……! でもこれでバッチリだ。

 ここであの人の肩を、あの角で触れば

 俺の理想の王国が出来上がる!』


インターネットよりもクモの巣状に広がった

バタフライラインを始動させるため前を歩くおっさんへ迫る。


『今だ!』


おっさんの肩へ手を置こうとしたとき、


『ぶぇーーっくしょいっ!!!!』


バカでかい声でおっさんは前かがみにくしゃみした。

一瞬だけ肩にふれるタイミングが遅れた。


『うぅぅ、寒気がしやがった……!』


おっさんはブルルと震えた。


わずかにタイミングがズレたことで、

精密に連動していたバタフライラインは一気に瓦解した。


『うそだろ!? あんなに時間かけて準備したのに!

 こんなおっさんのくしゃみ一つで全部台無しかよ!?』


完成間近のドミノを途中でやってきたネコに倒されるようなショック。

悪いのはそれだけではなかった。


不完全燃焼となったバタフライラインは、

俺の体に次々と接続されてゆく。


その結末はすべて同じものへと連動していた。


『俺が……消える!?』


看板を倒すと、桶屋が儲かり、俺が消える。

目薬をさすと、浸水がおきて、俺が消える。

車が水を跳ね上げると、電話が鳴って、俺が消える。


どれもこれも俺が消えるバタフライラインだった。


『ちくしょう! これが運命をいじろうとしたバツってことかよ!』


自分へと至るバタフライラインをいくら引きちぎっても、

ちぎれた先が別のバタフライラインと連動してしまう。


『そんな簡単に消されてたまるか!

 まだこの世界でやりたいことがあるんだーー!』


俺を消す運命へと誘導されないように別のバタフライラインを操作する。


他人のドアをノックすると、看板が倒れないよう補強される。

無関係の他人の写真に写り込むと、桶屋が破産する。


『これでどうだ! 看板が倒れなければ桶屋は儲からない!

 俺が消える運命にならないぞ!』


バタフライラインにはバタフライラインで対抗する。

仕組まれた運命にある各部品を崩してゆく。


『はぁ……はぁ……どうだ……まいったか……』


あらゆるバタフライラインの構成要素を崩してやった。

これで俺の消える運命は断ち切られた。

かに思えた。


『おい。お前、背中のそれ……』

『え?』


他の奴に指摘されて気がついた。

自分の背中からおびただしいバタフライラインが伸びていることに。


『うわぁぁ! いつのまに!?』


背中に手を回そうとしてもバタフライラインに触れられない。

光に触れなければ、運命の内容もわからない。


『誰か教えてくれ! 俺から伸びてるものは、

 いったいどんな運命になっているんだ!?』


俺のバタフライラインへ触れた奴らは

自分は関わらないようにとみなすぐに逃げ出す。


ひとりきりになった俺は誰もいない空き家にこもった。


バタフライラインの内容を知ることは出来なかったが、

自分でもなんとなく結末を察するようになった。


『いやだ……消えたくない……』


ブツブツとひとりごとを繰り返していると、

ジャリと地面を踏みしめる音が近づいてきた。


『あ……ああ……』


ついにその時が来た。

俺の背から伸びるバタフライラインに導かれて来た。



部屋にやってきた男は問答無用で俺を消し去った。



「これで大丈夫。留まっていた幽霊は除霊しました。

 もう変な独り言や、心霊現象も起きませんよ」

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