第56話 白アリの王

 昨夜は体調を崩してました…


 本日1話目

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「それでは、畑を広げましょうね!」


 聖女様の鶴の一声で、神殿の中庭だけで行われていた耕作が神殿の外でも行われることになりました。


 加工した塊芋をどうやって消費地まで運搬するのか課題は解決していませんが、御柱様と聖女様には何らかの成算があるようです。


「とにかくたくさん芋を作っておきましょう。あとは何とでもなりますから」


「はあ・・・」


 まずは塊芋を量産する。

 出来上がるまでに時間がかかりますから、その間に他のことを考える、ということのようです。


 一般に、荒れ地を開墾して畑にするのは過酷な作業だそうです。

 あたしは農家であったことがないので実感はわきませんが、堅くなった大地を掘り起こし、木の根を抜根し、岩や小石を取り除くのは大変な重労働だとか。


 そうして、いわば土地を土の絨毯のようにフカフカにして、初めて作物を植えることができるようになるわけで、普通なら力自慢の大の男たち何十人もが朝から晩まで鉄の鋤や斧をすり減らし、何年もその労働に費やしてようやく数エーカーの農地を手に入れることができるのです。


 さらに、出来上がった農地には水路を引いてため池を作り日照りに備える必要だってあります。

 肥料だって撒かないといけません。


 しかし、あたし達には土地神様と聖女様がついています!


「土地神様、お願いします!」


「理解シタ」


 土地神様は両腕をガツンと大地に打ち込むと、そのままゆっくりと人が歩くのと同じくらいの速さで前進を始めました。

 両腕からはしゅーしゅーと蒸気が噴き出し、細かく震えた両腕が進路の植物、小石、時には岩を細かく砕き、湿らせます。

 おかげで土地神様が車輪で前進すると、その後ろにはちょうど4列の黒々とした土の畝が出来上がるのです。


「ちょっと呆れるぐらいの効率の良さですね・・・」


「すごいですよね!・・・あ、ストップ!土地神様、ストップストップ!!」


 少し油断していたら、種芋がある以上の畑を耕してしまいそうになりました。


「すごくまっすぐな畑になりましたね、リリア」


「ええ、うんまあ。そうですね」


 目の前には、ほんの数分で縦10フィート、長さ100フィート以上の畑が出来上がっていました。

 これだけ直線的な畑は王国本国の大農園でもちょっと見かけないでしょう。


「リリア。ひょっとして土地神様が本気を出したら、地平線までを畑にできるのかしら」


「・・・できそうな気もしますけど、種まきも収穫も人手が足りないです」


 雑草とりと害虫は土地神様がしゅーっとひと吹きすれば済む気がしますけど。

 あたしと聖女様でどんなに頑張っても畑の半分に種が植えられる前に腰が痛くて死んでしまいます。


「そこは御柱様に相談しましょう。何か知恵を貸してくださるかもしれません」


「はい・・・」


 午後いっぱいをかけて、手持ちの種芋をわっせわっせと出来上がったばかりの畑の上に聖女様といっしょに埋めていく作業は、何だか楽しかったです。


「あとは夜になれば適度に雨が降るでしょうから放っておきましょう」


「はい!」


 水やりをしなくてよい畑、というのは何だか拍子抜けします。


 それにしても、小さな芋の切れ端がお日様と水の力をいっぱいに吸って、ほんの数か月で何十倍にも増えるのですから、農業って不思議です!


 銀貨も土に植えておいたら、何十倍にも増えたりしないからしら?


 ◇ ◇ ◇ ◇


 王墓は王国の王城の地下、基部にあたる部分に存在します。

 数百年、ひょっとすると数千年にわたって神聖な区画として歴代の王朝や帝国が管理してきた聖地です。


 その神聖であるべき王墓に、今や武装した数千の兵隊が列をなして入っていきます。

 その様子はを少し離れた上空から見れば、さながらシロアリが王城という上物の基部を食いやぶり倒壊させるかのように感じられたに違いありません。


 しかし、シロアリの王は自らの権威という基部を犯していることに何の自覚もないのです。


「陛下!王墓の管理人が陛下だけでなく先代の王妃様の許可がなければ地下扉の鍵を開けられぬ、と申しております」


「面倒な。実力で排除せよ!殺しても構わん!」


「ハッ!」


 敬礼した兵隊が駆け去ってしばらくすると、数発の銃声が響きました。


 またしばらくすると、伝令の兵が駆け戻って状況を伝えに来ます。


「陛下!先代の陛下の先に大きな岩で封鎖された区画があるようです。いかが致しましょう?」


「構わん、爆薬を使っても良い。封鎖を排除せよ!」


「はっ!」


 王子も伝令の兵も「番人はどうしたか」などと無駄な会話はしないのです。

 王の命令は必ず実行されるものであるのですから。


「・・・死んだ連中の財産が何だというのだ。この俺が現世で使ってやるのだから、むしろ光栄に思うべきだな」


 王子、いまや王国の唯一の王となった彼のつぶやきは兵士達の耳には届きません。


 白アリの王は、その権力と暴力を楽しんで振るっています。

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