第57話 物事の進み方

本日2話目です




 土地神様に耕していただいた農地で、あたしと聖女様は楽しく農作業をして神殿に帰宅したのですが、二人ともすっかり泥だらけになっていました。


 おまけに、最近は資本家仕事ブルジョワジージョブがメインになったせいで、すっかりたるんだあたしの腰と腿肉は、慣れない農作業で酷使された恨みを訴えるようにギチギチと鳴っています。


「いたた・・・せ、聖女様・・・お願いします」


「はいはい」


 聖女様が神殿奥の大きめの足がついた金盥、最近、鉄が余るようになったのか御柱様が作ってくれたそれはバスというのだそうですが、聖女様が仰るには、貴族用のものは1人が入るためのもので、この神殿にあるような4人ぐらいが入れるようなたっぷりとした容量のものはほとんど存在しないそうです。


「水くみもお湯を沸かすのも大変そうですものね」


「ええ。でもこの通り」


 聖女様が両手で盃を支えるようにかざすと、その間から聖なる水がこんこんと湧き出てきて、あっという間にバスは満杯になりました。

 そこへ土地神様が、しゅーっと熱い蒸気を吹き込むと、あっという間に適温のお湯をなみなみとたたえたバスの出来上がりです!


「ふぅーっ、まさに『見よ天国の泉はここにあり』ですね」


「聖女様、すごく宗教家っぽいですね」


「聖女ですから」


 土地神様と御柱様の他には見る者もなく、いえ、砂漠蟲もいましたね。

 とにかく人目をきにせず、神殿の中庭で入るバスは最高です。


 十分に汚れを落として温まるころには、星の瞬いた空にいつもの雨雲がうっすらとかかり始めていました。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 翌朝、あたしと聖女様は、さっそく昨日耕した畑の様子を見に行きました。

 昨夜の雨はそれほど強くありませんでしたが、植えた種芋が流されていないか気になったからです。


「ああっ!聖女様!もう芽が出ていますよ!」


「あら。ずいぶんと気の早い子達ですね」


 緑の草原にまっすぐに敷かれた100フィートの土の道路。

 その畝には芋の芽が道路をさらに細分するように、まっすぐ四列伸びています。


「前から思っていたんですけど、このあたりの草や神殿の作物って、伸びがすごく早くないですか?」


「少しはそういうことはあるかもしれませんね」


 神殿の中庭で聖女様は様々なお野菜を育てていましたけれど、その質の高さと美味しさは、まったく「少し」どころではないのです!


 形はそこそこですけど、どの野菜も本当にみずみずしくはちきれてしまいそうで、葉物野菜も、まったく病虫害がないのですから!


 王国の王侯貴族だって、こんなに上等な野菜を食べていたりしません!

 王城の厨房で働いてたあたしが言うのだから確かです!


「リリア、こぶしを振り上げたりしてどうかしたのですか?」


「いえ、何でもありません」


 少しばかり内心の興奮が動作に表れていたようです。

 あたしは今や立派な資本家なのですから、紳士、いえ淑女?らしく振舞わないといけませんので!


 ◇ ◇ ◇ ◇


 王とその軍は王墓の富を略奪するために悠々と地下空間を行軍しています。


「くそっ。それにしても広いな。それに暗い」


 王城の地下は何代もの王朝が築き上げてきた墓が無秩序につながり、さながら迷宮の様相を呈しています。


 そのうえ、王墓は横に広がっているだけではありません。


「ひいっ」


 突然ガラガラと兵士の足元が崩れて、ぽっかりと暗黒が口を開けます。

 魔導灯で下を照らしてみますが、空洞の底は見えません。


「まだ下にもあるのか・・・」


 いったいどこまで墓は続いているのか。

 ひょっとして教会のいう地獄とやらまで続いているのではないか。


「そ、そろそろ戻りませんか?十分に財宝は奪ったじゃないですか」


「なにを怖気ずくか!縄を持ってこない!王は全ての財宝をお望みだ!」


 学のない兵士が日曜学校の説教を思い出しながら震えて足が止まるのを、にわか士官達が叱咤します。


「誰か!ロープはないか!」


「ええと、後続の隊が持ってくるはずです」


「急がせろ!」


 入り口で押し合い圧し合いしていた兵士達も、迷宮の広さによって串の歯が欠けるようにばらけ、気が付けば10人程度の小隊で行動するようになっています。


 少人数で行動することは探索には適していますが、王墓の奥で永きにわたり封印されてきた暗闇に潜む何か、に対しては決定的に戦力が不足することを意味してもいたのです。


「暗いな・・・」


「魔導灯の調子が良くないな。魔力が乱れているのか?」


 兵士たちは俄かに点滅した後に暗くなった魔導灯の調子を確かめようと、他の魔導灯の明かりで分解作業するために背を向けています。


 暗闇に潜む何かが、久方ぶりの赤い血が通う存在に対し嬉々として牙を向けようとしています。

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