第42話 それぞれの戦後処理
本日3話目です
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今日は王国艦隊をやっつけて以来、初めての泥炭採取の日です。
御柱様の指示で戦争に向けて蒸気をうんと貯めるのにせっせと運んだ泥炭を山ほどに積み上げたわけですが、御柱様はあっさりと使い果たしてしまったようなのです。
御柱様ったら、とても食いしん坊です!
「何かあったら困りますから。明日にでも取りに行きましょう」
「そうですね。土地神様がしゅーっとしてくれなくなったら大変なことになります!」
主に蒸し料理とか洗濯汚れ落としとか絨毯の掃除とかが大変なことになるのです。
そんなわけで、作戦の間は隠しておいた泥炭輸送船を引っ張り出して上流の泥炭池に向かうことにしたのです。
◇ ◇ ◇ ◇
「うーん、やっぱり日中は暑いですねえ」
聖女様のおかげでこの辺りは毎日雨が降るようになりましたが、元々は灼熱の砂漠の国。
陽の高い時刻に薄い衣で日向にいると、チリチリと太陽が肌を焦がすのを感じます。
「リリア、暑かったら船室の影にいてもいいのですよ」
「でも聖女様が舳先で水を注いでいらっしゃるのに、あたしだけ涼むわけには・・・」
「私は大丈夫ですから」
それが聖女様の謙遜ではない証拠に、舳先で水を注ぐ聖女様の周囲には微かに霧が漂って強い直射日光を防いでいるようなのです。
そのとき、川面を渡ってきた風がふわっと聖女様の霧を吹き散らしました。
「わあっ、涼しい・・・っ!」
おかげで聖女様のミストシャワーをお裾分けしてもらう形になりました。
何だかすごく得をした気分です。
あたしはチラリと、今も船をロープで牽いてくださっている土地神様を見やりました。
「聖女様、土地神様は暑くないのでしょうか?」
「そうですね・・・土地神様からするとお水が蒸発するぐらいまでの暑さは暑さのうちに入らないのじゃないかしら」
「ええっ!絶対にそんなの暑いですよう」
「お腹の中でお湯を沸かしていますもの。それくらいは平気でしょう」
「まあ・・・そうですけど」
たしかに土地神様はお湯を沸かすのは得意ですけど、聖女様みたいに細かいことは苦手っぽいんですよね。
ですけど、細かい仕事はあたしの領分だからいいのです。
むしろ土地神様が細かいことまで得意だったら、あたしの仕事がなくなっちゃいます。
もっとも、今日の泥炭採取のお仕事では、あたしの出番はほとんどありません。
土地神様が力強く泥炭を積み上げるのを邪魔にならないよう見守るのが仕事です。
「あんなにたくさん集めた泥炭も、使うときはあっという間でしたよね。
もっと大きなお船を用意した方が良かったんでしょうか?
軍艦も全部沈めるのじゃなくて、一隻ぐらい残しておいた方が良かったかも・・・」
今考えればもったいないことをしたものです。
「リリア、あの時はそんな手加減できくような戦いではありませんでしたよ」
口を尖らせたあたしに、聖女様がやんわりと注意なされます。
「わかってます。全部、御柱様のおかげです」
あたし達が数に大きく勝る王国艦隊に勝てたのは、そもそも戦いにならなかったからであり、戦いにならないよう作戦を立てたのは御柱様です。
作戦の主導権は終始、御柱様が握っており、王国艦隊には最初から最後まで勝利の機会は与えられませんでした。
全ては御柱様の功績です。
言い換えれば、御柱様はあたしと聖女様の命の恩人ということですから、御柱様が「もっと泥炭を食べたい」と仰るならば「はい喜んで!」と泥炭をせっせと堀りに行くのが当然ではあります。
「御柱様には、何かお考えがあるのでしょう。おそらくですが、御柱様はまだ本当のお力を発揮していないように思います」
「まだまだ本気じゃないってことですか・・・」
あんなに凄い武器を出して、カチカチと王国艦隊の行動も完璧に計算して、完全に勝てる作戦も立てたのに。
あと、ついでに都市中を青い光で照らしてるし、柱を神殿の上まで伸ばして鳥さんともお話してるんですよね。
「もしも御柱様が本気を出したらどうなっちゃうんでしょう?」
「さあ・・・世界の平和を守るのか、ひょっとしたら世界を征服しちゃうんじゃないでしょうか?」
そうして聖女様は悪戯っぽい笑みを浮かべるのです。
◇ ◇ ◇ ◇
将軍は占領地で最高指揮官として苦闘しています。
今や戦争の目的は「勝利すること」ではありません。
国力の衰えが隠せない王国は一刻も早く戦争自体を終わらせなければならないのです。
「戦争は始めるのは容易く、終わらせるのは至難である、とはよく言ったものだ」
将軍のため息に副官が同意します
「生き残った住民の抵抗活動がやみませんね」
「愚かなことだ。放っておけば王国軍は出て行くのだが。まあ、強盗の勝手な理屈だがな」
王国は宣戦布告なしに戦争を始め、進軍し、虐殺と略奪を行ったのです。
「旗色が悪くなったのさようなら」などという都合の良い勝ち逃げを相手が許すはずもありません。
「彼らも王国軍の弱体化を察しているのだろうな。それでも現地住民の武装蜂起など命を投げ捨てるようなものだが・・・」
「恨みを買いすぎましたかな」
「全くだ」
今や王国の戦争計画は破綻しています。
もっとも、王子が建てた「絶対に勝つと決まっているので和平を持ちかける必要はない計画」を戦争計画と呼べるなら、ですが。
「他国の食料価格が下がっているな。それだけが唯一の救いだ」
占領軍は本国から補給できなくなった食糧を他国からの輸入に頼っています。
その食料価格が、最近はなぜか大きく下がっているのです。
「この価格なら下手をすると本国で買うよりも安いかもしれません」
「馬鹿な話だ。最初からこうなることがわかっていれば、そもそも農地を奪うなどと言う真似をせずに、食料を買い上げれば良かったのだ」
王国は本国で低下した農業生産と食糧不足を解決するために戦争という手段を選択しました。ですが、今や他国から安価に食料を買うことができるのだから、そもそも戦争という行為が必要なかった、という回答を突きつけられています。
「全く、本当に馬鹿な話だ・・・!兵士達は、いったい何のために死んだのだ!王国艦隊は何のために失われたのだ!この国の農民達に途端の苦しみを与えた上に、それが無駄だった、などと!」
「将軍・・・」
「いや・・・これは愚痴だな。とにかく占領地を一斉に放棄すれば軍も民衆もかさにかかって攻め立ててくることが予想される。退路と補給路を維持した形で防衛線を引いて段階的に放棄する必要がある。突出した敵を何度か叩く必要もあるだろう」
「早速、計画を作成します!」
きびきびとした動作で指揮所を後にする部下の背を見やりつつ将軍は呟くのでした。
「一兵でも、一人でも多く無事に本国へ返してやらんとな・・・」と。
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