第37話 迎撃準備

本日2話目です


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「爆発 シタ」


「あちゃー」


「やはりこうなりましたか。仕方ありませんね」


 あたし達は、王国艦隊が文字通り壊滅する瞬間をピラミッド御柱様と土地神様と一緒に見守っていました。


 あたしと聖女様のために床から生えた椅子の前には、縦1ヤード、横2ヤード程度の四角い金属の板があり、その板に外の様子が映っているのです。


「不思議な仕組みですねー」


「リリア、さわったらダメですよ。皮膚が剥がれます」


「ひえっ」


 あたしは慌てて伸ばしかけた指を引っ込めました。

 なんでも御柱様の説明を受けて要約した聖女様のおっしゃるには、この映像歯車テレビカムという板は無数の細かい歯車で出来ていて、歯車の凹凸と陰影で外の様子を再現しているのだそうです。

 ちょっと複雑な仕組みすぎてあたしにはよくわかりません。


「それにしても・・・御柱様すごいです」


「そうですね。世界一の王国艦隊が、まるで子供扱いですね」


「計算シタ」


「すごいです!」


 なんとなく御柱様が得意がっている様子が伝わってきます。

 あたしも5日間で戦争の準備を一緒に頑張ったので、だんだん御柱様の感じ方がわかってきたのです。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「心配 ナイ。必ズ勝テル」


 5日前、王国艦隊の来襲に下を向いていたあたし達を力づけてくれたのは、御柱様と土地神様でした。


「ですが、王国の艦隊は53隻もいるとか。王国の魔導大砲は1000門を越えます。陸戦の将兵は2万人を越えるでしょう。とてもわたし達で対抗できる数ではありません」


 聖女様があげた数字を聞くと改めて絶望的な気持ちになります。

 あたしが持っているボルト式小銃の弾丸は、残りせいぜい200発。

 全弾命中させたとしても、兵隊の1割の1割も倒せません。


 おまけに王国の魔導大砲の射程は2マイルは届くのです。

 あたしの銃がどれだけ頑張っても1マイルは届きません。

 1000門の大砲と1丁の小銃では勝負にもなりません。


「無理です・・・」


 あたしが下を向いていると、床の一角が青く切り取られるように光りました。

 そしてカチカチカチと歯車の音がして、大きな樽と管がつながった長いパイプのようなものがせり上がってきたのです。


「御柱様、これは・・・?」


要塞防衛用携行型対艦蒸気大砲フォートディフェンスポータプルアンチシップスチームキヤノンダ。リリア ガ 使ウ ト イイ。戦艦 モ 一撃 デ 撃沈可能 ダ」


「いっ!?これって大砲なんですか!?」


 長さは10フィートはあるでしょう。土地神様と同じ色の金属で出来た長大な銃身を持つ武器は、持ち運び可能な大砲だというのです!


「こんなの、あたしの力じゃ運べませんよ!」


「大丈夫。土地神 ガ 運 ブ。リリア ガ 撃 ツ」


 土地神様が重そうな大砲をひょいと担ぎ上げると、どんな機構が働いたのか、カチリと背中に樽をセットしてしまいました。

 左の方から長い砲身がのぞいていますが、土地神さまであれば全く苦にならない大きさです。


「椅子 モ アル。ソコカラ 狙 エル」


 そして大変に用意の良いことに、大砲の背部、樽の横に人が1人乗れるだけの金属のフレームまであるのです!

 あたしは土地神様の背中に乗って大砲を撃てば良いわけです。


「弾頭5発 デ 1セット。30発携行 デキル」


 戦艦を撃沈できるような弾薬を30発も持ち運ぶなんて恐ろしすぎます!


「・・・これ、どのくらい飛ぶんでしょう?」


 できれば王国の大砲より飛んでくれるといいな、と願望を込めて聞いたところ、とんでもない回答が返って来ました。


「携行型 ノタメ 30マイル ガ 限界」


 非常に申し訳なさそうな声で、御柱様が言うのです。


 比較のためにあげますと、王国の魔導大砲で正確に射撃ができるのは2マイルがせいぜいです。それだって、他の諸国と比較すると5割は遠くまで飛ばせる性能なのですよ!


「無茶苦茶ですね・・・」


 御柱様に提供された、この小さな大砲だけで世界を征服できそうな気がします。


「まあ、見えないところは撃てませんから海の上でもない限り、1マイルぐらいの距離で撃ち合うのかもしれませんけど」


 あたしは相当に目が良い方ですが、それでも1マイルも離れると標的はゴマ粒のような大きさになります。戦艦は大きな目標ですからアーモンドぐらいにはなりますが、それでも地平線や水平線という物理的限界はあるのです。


「水平線 ノ 先 モ 撃 テル。計算 デキル」


 ですが御柱様は、そんな心配は無用、とばかりに荒唐無稽なことを言い出します。


「いやいやいや・・・いくら御柱様だって、それは無理ですよ」


「いいえリリア。きっと出来ます」


 なぜか聖女様まで御柱様の肩を持ちだしました。


「リリア、弾道学という学問を知っていますか」


「えっと・・・知りません」


「弾道学というのは、大砲の発達と共に発展した学問です。簡単に言うと大砲をどの角度でどのくらいの強さで打ち出せば、どのくらいの距離まで飛ばせるかを計算する学問です。御柱様なら計算が出来ても不思議はありません」


「はーなるほど・・・」


 学問ってすごい。あたしは、学問っていうのは商店の帳簿をつけたり法律を学んで官吏になるためにするものだとばかり思ってました。


「空中眼 モ 使 ウ」


 御柱様が言うと、今度はまた別の床部分が青い光に包まれて歯車の音と共にせり上がってきました。


「まるい」


「丸いですね」


 子供が蹴る遊びに使うような、大きな革のボールをさらに一回り大きくして平たくしたような金属の楕円球です。

 そして、それは何とフワリと微かに蒸気を吹き出しながら浮き上がったのです!


「空中眼 デ 遠方 カラ 偵察 スル。音 モ 届 ケラレル」


「ははあ・・・」


 御柱様はまるで玩具箱のようです。

 次から次へと驚くような玩具が出てきます

 本質は物騒な武器なのでしょうが、あたしの知っている武器のイメージとはあまりにかけ離れていて玩具の一種とでも思わないと受け止められないのです。


「遠隔操作型水中機雷モ 使 ウ。コレヲ複数、王国艦隊ノ停泊予定地 二 設置 シテ 任意 ノ 瞬間 二 起発 スル」


 最後に床から出てきたのは、トゲのついた複数の金属製の球体でした。


「充分 二 蒸気圧 ヲ 充填 スレバ 艦隊 ハ 一撃 デ 壊滅 スル」


御柱様は、そのように計算結果を出力されました。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 こうしてあたし達は残された日数で、せっせと泥炭で御柱様と土地神様の蒸気を補充し、川底には水中機雷を沈めて、準備万端で王国艦隊を待ち受けた、というわけなのです。

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