第32話 久しい響き
本日3話目です
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その音はいかなる種類の音であったのか、世界中に響きわたりました。
もっとも、その音がいかなる種類の音で何を意味するのか解する者はほとんどいませんでしたが。
ですが、ごく一部の者と、ごく一部の存在にとっては主の復活を告げる狼煙であったのです。
◇ ◇ ◇ ◇
世界中に響いた角笛の如き音は、苦戦中の王国軍にももちろん届きました。
「いったい何の音だ!敵の合図か!?」
すわ敵襲か、と陣中で喚く王子の疑問に将軍が答えます。
「落ち着いてください。このように見え見えの合図など王国軍にとって何の驚異にもなりません。正面決戦では依然として我が軍は有利なのです。兵士の忠誠と力をお信じください」
「・・・ふむ。たしかにな」
王子は将軍の助言で冷静さを取り戻しました。
結局、敵軍の奇襲はなく、軍の雑務の処理に紛れて王国軍陣内ではそれ以降は奇妙な音を話題にする者もいなかったのです。
◇ ◇ ◇ ◇
もっと近くで音を聞いていた者達もいました。
「あ、あの音は何だ!」
「あの奇妙な建物の方からだ!」
「怪しげな術を使う魔女の仕業に違いない!」
それは、まるで難民と病人の群れへと落ちぶれた王国軍の兵士達でした。
出発時は100人を越える威勢を誇った聖女捕縛の大隊は、行軍中の様々なトラブルで脱落者が続出し、今では10人に届かず、それも衣服は泥にまみれ、武器を失い、熱病でフラフラと足下もおぼつかない有様です。
「あの魔女を殺すのだ!魔女は王国のためにならん!」
折れかけた剣にすがるようにして歩くのは、捕縛の任を受けた貴族です。
多くの兵士達が脱落する中、食料を独占し、脱落した兵士から雨具を奪い取り、とにもかくにも行軍に最後までついてこれたのは栄達への執念の賜物と誉め称えられても良いかもしれません。
「それにしても、あの都市はなんだ・・・?」
兵士達の目には、ほどよい短さに整えられた豊かな草原と、その先にある奇妙で巨大な黒い石の建造群が見えています。
さらに不可解なことに、全ての黒い石の建物からは青い光が、まるでガス魔灯で照らされた王国の王都のように、いえ、それ以上に強く明るい光で照らされているように見えるのです。
もしも彼らに正常な判断力が残っていれば、巨大な古代都市の発見という知らせを王国に持ち帰ることを最優先にしたことでしょう。
ですが、飢えと寒さと病気に苦しみ抜いた兵士達の頭脳には、もはや全ての災厄を引き起こした聖女への憎しみしか残っていません。
彼らは一歩、また一歩、足を引きずりながら「災厄の中心」へと肩を支え合いながら向かったのです。
◇ ◇ ◇ ◇
「なんだかすっかり明るくなっちゃいましたね」
「そうですね。少しまぶしいです」
やや薄暗かった中央の空洞は、青い光のおかげですっかり明るくなりました。
まるで王宮のガス魔灯シャンデリアでを何倍にもしたような煌びやかさです!
あまりに明るくてちょっと情緒がないかな?と思ってしまうぐらい、そのくらい明るいのです。
「聖女様、そろそろご飯にしませんか?」
「そうですね、土地神様もご一緒しませんか」
今日はあまりに多くのことが起きすぎました。
もうお腹がぺこぺこです。
外が青い光で明るくなろうと、夕暮れになればお腹は空くのです!
あたしと聖女様は大きなことを成し遂げた達成感で胸をいっぱいにーーー実際にほとんどの作業をしていたのは土地神様でしたがーーーピラミッドの基部から外へと出ることにしたのです。
「そういえば、柱のせいで神殿がなくなってたらどうしましょう?こう、びよんと伸びて弾きとばされたりとか・・・」
「リリアったら心配性ですね。黒い石の床の部分は大丈夫でしょう。土地神様のお家ですもの。そのあたりはきちんと配慮されて造れられているものと思いますよ」
「それはそうですね!」
お話をしながら地下道を抜けて地上に出ますと、地上の光景も一変していました。
「わぁーーー・・・すごい」
「すっかり明るくなってますね」
そこには、強く青い光に照らされた古代都市がありました。
王国の王都中心部よりも広く、王宮よりも力強く、ガス魔灯よりも遙かに力強く隅々まで照らされた黒い石造りの都市です。
「こんな立派な街にあたし達だけって、ちょっと勿体ないですね」
「わたしとリリアと土地神様の3人だけでは、少し広いかもしれませんね」
「羊飼いのおじさんとか住みたがるでしょうか?」
「どうでしょうね・・・少し怖がるかもしれません」
たしかに、地元の人達は神殿をおそれていますし、この街についてあたし達が分かっていることは少なすぎます。
土地神様が掘り出したこと、大昔の都市らしいこと、そして神殿の真ん中の大きな柱・・・。
「でも、あたしは土地神様を信じます!」
だって、土地神様は困っていたあたし達に力を貸してくれて、お風呂を沸かして選択してご飯を作るのを手伝ってくれて、一緒にご飯も食べた仲です!
あたしを売り飛ばした王国の髭おじさん達よりも、あたしは土地神様を大事に思うのです。
「そうですね、リリアはそれで良いと思いますよ」
また聖女様は不思議な笑みを浮かべるのです。
「そうだ!いいことを思いつきました!羊さん達を都市に住ませてあげたらどうでしょう?夜は雨が避けられますよ!」
「人が来なければ、それもいいかもしれません」
そんな聖女様とあたしの食事前の会話は、突然の乱入者に遮られたのです。
「見つけたぞぉ!魔女めぇ!!」
それは、ほんとうに久しぶりに聞いた聖女様以外の王国語の響きでした。
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