第22話 もっと燃えるものが必要だ

「結局、動きませんでしたね・・・」


「うーん何がいけなかったのかしら・・・出力不足?」


 半日ほど頑張ってみましたが、ピラミッドの中にあった巨大な歯車の計算機群は、聖女様がいろいろ弄ってみましたが全く動きませんでした。

 一時撤退です。


「すごく大きかったですもんねえ・・・」


 あんなに大きくて精密な機械は見たことがありませんでした。

 お城の柱時計が1万個集まったぐらい複雑です。


「もう少し何とかなると思ったのですが・・・まだまだ勉強が足りませんね」


 珍しく聖女様が肩を落としています。


 内部の部屋には竜車と同じくらい大きな竈か炉のような形をした設備があって、壁面のパイプを通じて動力を送り込むらしいことまでは解ったのです。


 ですが、そこから先は全くのお手上げでした。


 一応、手持ちの燃料である薪を放り込んで火をつけてみたのですが、一瞬だけピクリとしてあとはウンともスンともいわなかったのです。


「きっと薪ではダメね。もっとパワーのある燃料が必要でしょう。そうね、たとえば王国の製鉄所で使っているという石炭とか」


「えー?石炭って、あの黒い煙が出る石ですよね?あたし、石炭の煙って臭くて好きじゃないんですよね・・・重いし汚れるし喉が痛くなるし」


「あとは燃料をコークスにする、という方法もあるわね」


「こーくす・・・石炭の蒸し焼きですか?」


「リリア、詳しいですね」


「竜蹄鉄のところのおじいちゃんに教わったんです。石炭は蒸し焼きにして使えって・・・でも家のボロいストーブでやったら穴が開いちゃって。すっごく怒られました」


「あらあら」


「・・・石炭って、このあたりで手にはいるんでしょうか?」


「リリアはやる気ですね?」


「そりゃあ、お世話になった土地神様のためですもの」


 歯車の柱が動かなかった件では、あたし達以上に土地神様が落ち込んでいました。

 土地神様に表情はありませんけれど、あたしには何となくわかるんです。


「錯覚ではありませんの?」


「違いますよ!だって、土地神様は日課の街堀りもしてないし、柱の部屋から動かないじゃないですか」


 そうなのです。

 計算機を動かすのに失敗して以来、土地神様はピラミッドの地下室から出てこなくなりました。まるで何かを待つように・・・


「何かの計算をしているのではありませんか?」


「いいえ!あれは落ち込んでいるんです!」


 薄情なことを言う聖女様に代わり、あたしは今こそ土地神様の恩義に応えなければいけません!

 土地神様に元気になってもらわないと、ご飯が美味しくないのです。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「石炭・・・石炭・・・どうやって手に入れよう・・・」


「リリア、パンが焦げますよ」


 あたしの最近の悩みは、土地神様のためにどうやって燃料となる石炭を手に入れるか、です。

 寝ても覚めても黒い石のことが頭から離れません。


 それに、土地神様のご飯となる枯れ木の調達も難しくなってきています。

 歩ける範囲の枯れ木は土地神様が土木工事のついでに抜いてしまいましたし、毎夜のように雨が降りつづけたせいか、川原に流れ着く流木もめっきり少なくなりました。


 上流の枯れ木が流されきったのか、あるいは川幅が広くなって漂着することなく下流に流されて行ってしまっているのかもしれません。


「どこかに邪魔な木が生い茂る森林とか、石炭の鉱山が眠ってたりしないかなあ」


「あらあら。そうしたらリリアは山主さんか鉱山主さんね」


 現実に山を持っていたり鉱山を持っているのは、本国でも一握りの本当のお金持ちだけです。そういう財産を売るだけで働かずに暮らしていける人達を「しほんか」とか「ゆうさんかいきゅう」とか「ぶるじょわじー」と言うそうです。


「あたしは資本家って感じじゃないですものねえ」


「そうね。リリアならお金持ちになってもお金を正しく使ってくれそうだわ」


「じゃあ、あたしはお金持ちになったら聖女様に寄付します!それで・・・聖女様に一杯研究してもらいます!」


「ふふっ・・・そうしたらきっと面白いことができるわね・・・」


 いま、聖女様の眼鏡の奥の瞳がキラリと危険な色合いを帯びたような。

 聖女様に好きなだけ研究をして良い、とまとまったお金を渡すと何だか良くないことが起こりそうな気がします。


「石炭・・・燃料・・・燃えるもの・・・どこかに落ちてないかなあ・・・」


 何とかして土地神様のお力になることはできないものでしょうか。

 蒸し料理がないご飯は味気なくていけません。


 完全に暗礁に乗り上げた形となった土地神様の燃料問題。

 その解決方法は意外なところからもたらされることになるのです。

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