第20話 それぞれの勝利のために

本日の更新1話目


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 大きな、とても大きな翼を持つ鳥が高い空をゆったりと滑るように、大きな輪を描きつつ旋回しています。


 巨大鷲ジャイアントイーグルです。獲物を狙っているのです。

 数マイル先の獲物も見逃さないと鋭い視力でもって地上の一点に狙いをつけると、大きな翼をすぼめて急降下に入ります。


 その速度は100マイル以上に及びます。

 弾丸のように一直線に急降下する巨大鷲。


 機会です。


 パンッ!「命中!」


 ファッと幾本も羽毛が飛び散り、巨大鷲はバランスを崩したまま地面に激突しました。

 もちろん、即死です。


 ガチャリと、ボルトを動かして排莢し念のため次弾を装填します。

 獲物は仕留めた、と思った瞬間が最も危険なのです。

 鳥さんには、油断があったのです。


 ボルト式小銃アクションライフルを背負って小走りに巨大鷲の墜落現場まで行きますと、頭に布を巻いた羊飼いのおじさんが腰を抜かしていました。


「こ、これはあんたが・・・? いや、腕前を疑うわけじゃないんだが」


「そうです。羊さんが横取りされたら大変ですからね!」


 はっと立ち上がると、満面の笑顔でお礼を言ってくれます。


「い、いやありがとう!ほんとうにありがとう!巨大鷲には困っていたんだ。助かったよ!お礼に後で届け物をさせてもらうよ!」


「お待ちしてます」


 夕食のお肉をゲットです。

 羊かな?山羊かな?


 ◇ ◇ ◇ ◇


 巨大鷲は砂漠に生きる者全ての王者。

 そして羊飼いの天敵です。


 せっかく羊飼いさん達が肥やした羊を、空から舞い降りてサッと大きな爪で引っかけて盗んでいく泥棒です。

 お肉泥棒は許しません!


「・・・それで、撃ち落とした巨大鷲の遺骸はどうしたの?持ってこなかったの?」


 聖女様が茹でた子羊の肋骨についた肉をスプーンでこそげ取りながら聞いてきます。

 新鮮な子羊の煮込み美味しいです。


「あっ聖女様、心臓を食べるなんて罪作りです。信仰に反しますよ・・・ええと、そうですね。鳥は羊飼いのおじさんにあげちゃいました。鷲なんて美味しくないですし」


 何でも、部族に持ち帰って羽飾りを作って自慢するのだとか。

 羊飼いのおじさんは上機嫌で生まれたばかりの子羊を奮発して絞めてくれました。

 弾丸一発で子羊一匹。とても良い取引です。


「そうなの?そういえば、肉を食べる動物の肉は美味しくない、と聞きますね。肉に動物の臭みが移るのだそうです」


「はー・・・そんなことが。だから草を食べる砂漠蟲の肉とか卵は美味しいんですね」


 ちらりと神殿の暗がりに眼をやると、何かがぶるりと怯えた気配がしました。

 大丈夫、卵をときどきもらうだけだから。


「あ!聖女様!肝臓レバーはだめですよ!聖女様のお肉が汚れてしまいます!」


「リリア、わたくしは水の聖女です。奇跡の水を飲むだけで浄化されますから臭みは残りません」


 澄まし顔の聖女様に食い下がります。


「あたしは下々の義務として聖女様を汚れから守らないといけないのです!・・・聖女様、肝臓を半分下さい」


「仕方ありませんね。元々はリリアの働きで手に入れたものですから。遠慮はいりませんよ」


「はい!遠慮しません!あ、残りのお肉は土地神様に蒸してもらいましょう!それと骨も!この前、土地神様にしゅーっとしてもらうと、骨も軟らかくなることを発見したんです!」


「骨も・・・それはすごいですね」


「はい!スープにしたらきっと美味しいですよ!後でお願いします」


「問題ナイ」


 応えてくれたのは土地神様です。

 最近、土地神様とお話ができなくて寂しい、と訴えましたら夕食の際は同席していただけることになったのです。


 土地神様のご飯は薪とお水だけですが、何だか楽しそうに見えます。

 どんな神様であってもご飯抜きはよくないし、一人だけ仕事を続けるなんてダメです。

 寂しくなっちゃいます。


 久しぶりの賑やかな夕食の席は夕暮れの迫る神殿を明るく照らし、美味しさと幸せの匂いが漂っています。

 賑やかな女2人の嬌声に時折り土地神様が返事を挟む形の饗宴は、半月が高く上がるまで続きました。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「遅い!他の軍団は何をしているのか!!」


 王子様は地図を睨みながら連絡将校を怒鳴りつけます。


「はっ!何でも進軍中の食料調達に想定より時間がかかっている、とのことで」


「何が食料調達か!どうせ民家の略奪に夢中になっているのであろう!これだから平民どもは度し難い!!」


 王子様の偏見に基づく推測は、この際は完全に事実に合致しています。

 ただ正確を期して付け加えるならば、兵糧の補給を怠ったのは王族であり、軍団を指揮しているのは貴族であり、兵士の蛮行を阻止しなかったのも貴族の指揮官なのですが。


 進軍の際に軍団を分けたため、王子の指揮する軍団兵力は今や当初の三分の一になっています。


「もういい!奴らなど当てにせん!我が軍団だけで勝利を目指すのだ!兵士達よ、私に続け!」


 王子様は意気軒昂と剣を振り上げて進軍を命じました。


 進軍速度を重視し、王国の軍隊として規律を守るため略奪と食料を最低限に禁じられた兵士達は空腹で暗い光を眼に宿し、足をひきずるように続きます。


 王国の勝利のために。

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