水の聖女と蒸気の鉄人

ダイスケ

第1話 聖女よ、お前を追放する!理由は「雨女」だから!

 水は偉大な神の恵みです。

 水は作物を育て、作物は人を育てます。


 最近、人は新しい水の使い方を覚えました。

 水を狭い缶に封じ込めて熱く熱くして水蒸気にすると千倍に増えます。

 増えた力をまっすぐ逃がして、ピストンを動かします。

 ピストンをクランクで回る力にします。


 回る力で水車は過去のものになりました。

 回る力で風車は過去のものになりました。


 お湯の蒸気の力は人間の何百人分もの力を生み出します。

 我が王国は、こうして空前の繁栄の時代を迎えたのです。


(王国教会 児童教育冊子 より抜粋)



 ◇ ◇ ◇ ◇


 突然ですが、聖女様は王国から追放されることになりました。


 何でも、王宮主催の婚約祝いのパーティーで


「お前のように陰気臭い女といっしょでは王宮がカビる!出て失せろ」


 と、お下品にも王子様が絶叫したと聞いています。


 おまけに「最近起きた水害もお前のせいだ」とか「城の食料庫の麦が腐ったのもお前のせいだ」とか適当に理由もつけ加えられたそうです。


 ちなみに水害が起きたのは堤防の人足を王家と貴族の方々がケチったからですし、食料庫の麦が腐ったのは横領した役人の言い訳ですけどね!

 上の人が怖いので誰も口に出したりしませんが、城勤めの者はみんなが知っていることです!


 とにかくも、ありとあらゆる罪をひっかぶせられて聖女様の責任だ、ということになったようです。宮廷政治って怖い。


 そして聖女様は、この霧の王都から遠い遠い、ほんとうに遠いカラカラ砂漠の植民地の果てに追放されることになったとか。


「ほへー、聖女様が。王様ってのは、罰当たりなこってすねー」


「ほんとうにねーお気の毒」


 と言葉の上では同情していても、あたしらのような城勤めの下働きの小娘には、しょせんは雲の上の他人事に過ぎません。

 お城の兵隊さん向けの食堂の片づけをしつつ一くさり盛り上がり、家に帰る頃には忘れる程度の宮廷ゴシップの一つになる、はずでした。


 ところが。


「リリア!この食堂に竜蹄鉄屋通ドラゴンシューストリートりのリリアという者はいるか!」


 しつこい木の食器の油汚れを藁の束子たわしで拭っていると、賄い所まで城の文官らしい髭のおじさんがやって来て、あたしの名前を呼んだのです。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 背中を押されるように急かされて、あたしは、でっぷり太った髭のおじさんの後に続いてガス魔灯のオレンジ色が灯り始めた王宮の大廊下を早足で歩いていきます。

 このあたりには来たことがありません。あたしのような平民出には一生、縁のなさそうな区画です。


「すっごい柔らかい」


「これ!絨毯を踏むでない!キョロキョロせずついて参れ!」


 大理石の廊下の真ん中に敷かれている赤い絨毯を歩いたら怒られました。

 平民は端の石の部分を歩かないといけないそうです。


「・・・綺麗」


 沈みかけた夕日が縦に何十フィートもある壁のステンドグラスから差し込んで、休息日に行く教会のような輝きを廊下に落としています。


 お貴族様は、いいご飯を食べてるだけでなく、浴びる光や踏みしめる床まで凄いんですね・・・ あたしの住んでる街の屋根裏部屋とは大違い。

 お金持ち、すごい。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ぐねぐねとした通路をえんえんと進んでは曲がり、曲がっては進み。

 自分がお城のどこにいるかもわからなくなった頃、気がつくと、あたしは大きな部屋の硬い椅子にぽつんと座らされていました。

 向かい側の長い机には、偉そうな髭のおじさん達が何人も眉間に皺を寄せてフカフカのソファに座っています。


竜蹄鉄通ドラゴンシューストリートりのリリア、で間違いないか」


「はい」


 姓なんて洒落たものは、あたしらのような平民には縁のないものですから、だいたいは住んでいる場所と名前の組み合わせで呼ばれます。


 髭のおじさん達は名乗ってくれないので、心の中で左からドジョウ髭、ナマズ髭、ちょび髭、顎もみあげ、と心の中で呼ぶことにしました。


竜蹄鉄ドラゴンシューか。竜車りゅうしゃもしばらく乗っていないな」


 ドジョウ髭のおじさんが昔を懐かしむように発言します。

 もともと竜車は、お貴族様の乗り物です。


 最近は魔導蒸気列車マギスチームトレインというものが出てきて、王都と鉱山と港を蒸気を吹き出しながら高速で走っているそうですが運賃が馬鹿みたいに高いのと、あたしのような平民が海に行く用事もないので乗ったことはありません。


 そうしてしばらくは雑談めいて「身体は健康か」「親族はいるか」「今の仕事に不満はないか」などと当たり障りのない質問がされた後、ナマズ髭おじさんが決定的な質問をしてきたのです。


「ところで、週に銀貨2枚の仕事がある。引き受ける気はないか?」と。

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