2020 文体診断で文豪の文体を診断してみたよ その2
文体診断ロゴーンで文豪の作品を診断したらどうなるかという、わりと下世話な企画、第二回です。
小説の適当な部分から約五千字を抽出して診断しています。抽出する箇所によって評価も変わるので、あくまでも話半分で捉えてください。
1 夏目漱石 こころ(二回目)
一致指数ベスト3
1 末弘厳太郎 83.1
2 太宰治 82.7
3 阿刀田高 82.1
一致指数ワースト3
1 岡倉天心 43.9
2 吉田茂 59.3
3 岩波茂雄 60.3
文章評価
1 文章の読みやすさ D 一文がやや長い
2 文章の硬さ A 文章がやや柔かい
3 文章の表現力 B 表現力豊か
4 文章の個性 A とても個性的
前回は後半の「先生と遺書」でやってみましたが、今回は「先生と私」の冒頭部分でやってみました。
そして、末弘厳太郎って誰? となりました。
末弘 厳太郎(すえひろ いずたろう、1888年(明治21年)11月30日 - 1951年(昭和26年)9月11日)は、大正・昭和期の日本の法学者。研究対象は、民法、労働法、法社会学。(ウィキペディア(Wikipedia)より)
青空文庫に末弘 厳太郎さんの『嘘の効用』がありました。
われわれは子供のときから、嘘をいってはならぬものだということを、十分に教えこまれています。おそらく、世の中の人々は――一人の例外もなくすべて――嘘はいってはならぬものと信じているでしょう。理由はともかくとして、なんとなく皆そう考えているに違いありません。「嘘」という言葉を聞くと、われわれの頭にはすぐに、「狼がきたきた」と、しばしば嘘をついたため、だんだんと村人の信用を失って、ついには本当に狼に食われてしまった羊飼の話が自然と浮かび出ます。それほど、われわれの頭には嘘をいってはならぬということが、深く深く教えこまれています。
ところが、それほど深く刻みこまれ、教えこまれているにもかかわらず、われわれの世の中には嘘がたくさん行われています。やむをえずいう嘘、やむをえるにかかわらずいう嘘、ひそかにいわれ陰に行われている嘘、おおっぴらに行われている嘘、否時には法律によって保護された――したがってそれを否定すると刑罰を受けるようなおそろしい――嘘までが、堂々と天下に行われているほど、この世の中には、種々雑多な嘘が無数に行われています。
実をいうと、全く嘘をつかずにこの世の中に生き長らえることは、全然不可能なようにこの世の中ができているのです。
そこで、われわれお互いにこの世の中に生きてゆきたいと思う者は、これらの嘘をいかに処理すべきか、というきわめて重大なしかもすこぶる困難な問題を解決せねばなりません。なにしろ、嘘をついてはならず、さらばといって、嘘をつかずには生きてゆかれないのですから。
ああ、なんとなく似てますね。ロゴーンすごいです。
一致指数ワーストは安定の岡倉天心さんです。
2 太宰治 走れメロス
一致指数ベスト3
1 太宰治 85.8
2 吉川英治 84.3
3 阿川弘之 81.4
一致指数ワースト3
1 岡倉天心 33.4
2 岩波茂雄 46.8
3 三木清 46.8
文章評価
1 文章の読みやすさ A とても読みやすい
2 文章の硬さ C 文章がやや硬い
3 文章の表現力 A とても表現力豊か
4 文章の個性 A とても個性的
太宰さんは以前も本人評価でした。太宰さんへの愛なのでしょうか。
そして文章力もすばらしい評価です。やはり愛(以下略)。
3 田山花袋 蒲団
一致指数ベスト3
1 夏目漱石 84.1
2 佐高信 82.5
3 北原白秋 82.5
一致指数ワースト3
1 岡倉天心 53.5
2 三木清 59.2
3 寺田寅彦 62.9
文章評価
1 文章の読みやすさ D 一文がやや長い
2 文章の硬さ D 文章がやや硬い
3 文章の表現力 A とても表現力豊か
4 文章の個性 C やや個性的
萌え小説の走りなのかなあ(違う)とも思う田山花袋の『蒲団』ですが、夏目漱石先生でした。あるじゃん、夏目先生。なぜ本人のときに出ないのか不思議に思います。
そしてワーストは岡倉天心。三木さんも安定のワーストぶりです。
4 宮沢賢治 銀河鉄道の夜
一致指数ベスト3
1 有島武郎 82.3
2 井上ひさし 81.3
3 松本幸四郎 77.6
一致指数ワースト3
1 岡倉天心 43.8
2 吉田茂 48
3 岩波茂雄 53.5
文章評価
1 文章の読みやすさ E 一文が長い
2 文章の硬さ E 文章が柔かい
3 文章の表現力 A とても表現力豊か
4 文章の個性 A とても個性的
本人にかすりもしませんでした。童話なのでひらがなが多めです。
文章の表現力と個性はすばらしいですね(だいたいこの項目はすばらしいです)。
ここから下は私の趣味枠です。
5 カーレン・ブリクセン 渡辺 洋美 (翻訳) アフリカ農場
アイザック・ディネーセン『アフリカの日々』の訳者が別の翻訳本です。
好きな箇所を引用します。こんな文章です。
鳥獣保護区で、イグアナという大トカゲが、川床の平たい石のうえで日光浴をしているところに何度か出くわしたことがある。あまり見栄えのする形とはいえないが、その色合いは想像を絶する美しさである。山と積んだ宝石、あるいは古い教会のステンドグラスの一隅のように燦然と輝いている。人が近づいてさっと逃げたあと、イグアナのいた石の上を空色、緑、真紅の光束線が流れて、一瞬、色のスペクトル全部が彗星の尾のように宙に漂って見える。
一度わたしはイグアナを撃ったことがある。その皮でいろんなきれいなものが作れると思ったのだ。するとそのとき、あとあとまで忘れられないような不思議なことが起きた。イグアナが石の上で死んでいるところまで足を運ぶ、まさに二十歩ほど行くあいだに、その身体は色褪せて薄色になり、色という色がじわじわと、息をひきとるように消えていった。手にとってみたときには、それはセメント塊のように冴えない灰色になっていた。あの絢爛たる色彩を放っていたのは、体内で力強く脈打つ生きた血だったのだ。こうして命の火が消えて魂が飛び立ってしまうと、イグアナは砂袋のように生彩がなかった。
一致指数ベスト3
1 井上ひさし 86.5
2 松たか子 83.5
3 松本幸四郎 83.4
一致指数ワースト3
1 岡倉天心 48.7
2 岩波茂雄 55.5
3 吉田茂 56
文章評価
1 文章の読みやすさ B 読みやすい
2 文章の硬さ D 文章が柔かい
3 文章の表現力 A とても表現力豊か
4 文章の個性 B 個性的
井上ひさしなのか……翻訳文で文体診断をしてもあまり意味がありませんが。
ワーストは岡倉天心です。鉄板。
6 レイモンド・チャンドラー 村上春樹訳 ロング・グッドバイ
一致指数ベスト3
1 阿刀田高 87.1
2 松たか子 86.6
3 小林多喜二 85.3
一致指数ワースト3
1 岡倉天心 39.8
2 岩波茂雄 47.2
3 吉田茂 49.9
文章評価
1 文章の読みやすさ C 適切
2 文章の硬さ D 文章が柔かい
3 文章の表現力 B 表現力豊か
4 文章の個性 A とても個性的
翻訳文で文体診断をしても意味がない第二弾です。
ハードボイルドの文体ですが、村上春樹さんの訳で文章がしなやかです。
表現力と個性はすばらしい評価ですね。そしていつも謎なのが松たか子の文体です。
7 父と私 恋愛のようなもの 森茉莉
一致指数ベスト3
1 芥川龍之介 91.8
2 菊池寛 91.4
3 森鴎外 88
一致指数ワースト3
1 岡倉天心 39.7
2 吉田茂 46.7
3 岩波茂雄 49.1
文章評価
1 文章の読みやすさ A とても読みやすい
2 文章の硬さ C 文章がやや柔かい
3 文章の表現力 D やや表現力不足
4 文章の個性 A とても個性的
森鴎外の娘森茉莉さんが父との思い出を描いたエッセイです。
鴎外が三位に入っています。さすがパッパ。執念で入ったな(偶然です)。
文章の表現力が微妙に不満です。もっとあるんじゃないでしょうか。
あまりにもワーストのラスボスぶりが冴え渡っているので、岡倉天心がどんな文章を書いているのか、青空文庫で探してみました。
茶の本 岡倉覚三(岡倉天心) 村岡博訳
東西両大陸が互いに奇警な批評を飛ばすことはやめにして、東西互いに得る利益によって、よし物がわかって来ないとしても、お互いにやわらかい気持ちになろうではないか。お互いに違った方面に向かって発展して来ているが、しかし互いに長短相補わない道理はない。諸君は心の落ちつきを失ってまで膨張発展を遂げた。われわれは侵略に対しては弱い調和を創造した。諸君は信ずることができますか、東洋はある点で西洋にまさっているということを!
どうかけ離れているのかはわかりません。
ちょっと檄文っぽいところを引用してみました。
今回はここまでです。お付き合いありがとうございます。
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