心のままに……。

樹 亜希 (いつき あき)

単純に、そして唐突に。

 目覚めるとすぐに体温を測る、もうそれは日課となっていた。

 瑞貴みずきはゆっくりと体を起こす。一人のベッドは広くて冷たいなと瑞貴は手の平でシーツを何度も撫でる、夫がいつもいた場所を……。

 昨夜も眠りが浅く何度も起きてしまった。よい睡眠がとれない日々を重ねて今日がある。しかし、悪いことばかりでもない、時差式通勤のおかげで少しゆっくりと会社に行くことができる。

 満員電車の少し空いている感じ、人の流れはそんなに変わらない。

 スマホの電源を入れると、夫の宏樹からlineが来ていた。


『今週末も帰れないと思う』


 三鷹のこのマンションの部屋から宏樹がいなくなり一年が過ぎようとしている。宏樹ひろきは単身赴任で大阪へ行った。簡単に決めたことではない、瑞貴もともに行くという思いはあった。だが出版社勤務の瑞貴は念願の編集の仕事を任されて二年目、ようやくという感じだった。仕事をやめるという選択肢はない。

「ごめん、私、一緒に行けないわ」

「わかっている、たかが二年だよ、週末には帰るようにするから」

 笑顔で話し合ったあの頃のことを思い出す。

メロウな気持ちと生活は別物と思えるほどの時間は熟れていないと思っていた。

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