第38話 竜崎伊織の独白

強くなりたい。


その思いは中学2年生の時に芽生えた。


それから俺は確かに強くなった。


誰にも負けない腕っぷしを手に入れたし、勉強も中学ではトップだった。


喧嘩に明け暮れては、帰って勉強する日々。


全ては1人で俺たちを育ててくれる母親と、虐められていた妹を護るため。


そんな思いからだったはずだ。


なのにいつからかその思いは、暴力を振るうための言い訳になっていた。


他人への劣等感をも暴力へと変えた。


そんな俺を見て母は何も言わない。


呆れられたのだろう。


妹は俺を心配するように見てきた。


こんな兄は嫌なんだろう。


劣等感を拭っていたはずの暴力は、いつしか劣等感を生み出すものに変わっていた。


けれどある日、喧嘩を終えてボロボロになって帰ってきた時、涙を流す母に「ごめんね」と言われた時、俺はようやく気づいたのだ。


俺が母を護りたいと思う以上に、母は俺を護りたかったのだと。


だから変わろうと決心した。


元々少し遠くの高校へ進学するつもりだったし、そこは成績上位であれば相当な額の学費援助があったし、運良くそこへ進学する同じ中学のやつはいなかった。


変われる。


そう思っていた。


入学式であの事件を起こすまでは。


そしてその時、ある人物に出会うまでは。

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