第34話 届かない真実
その後豪勢な食事をいただいた後、俺達は平川家を後にすることとなった。
食事中は女子会と化しており、俺と平川は肩身の狭い思いをさせられた。なんであんな女子は話が尽きないのかわからんまじで。
「それじゃあみんなを駅まで送ってくるよ」
「はぁい。また来てねぇ」
明日ももしかするとお邪魔するかもしれないが、それは平川から伝えておいてくれるだろう。
皆口々にお礼を言い、玄関の扉を開ける。
「じゃあ私、家そこだから」
平川と幼馴染ということもあり、高梨の家はすぐ近くのようだ。高梨とは別れ、4人で駅に向かって歩き出す。新川も平川と同じ中学ということで家は近いが、駅の方らしいので一緒に帰ることとなった。
「いやー、それにしても平川君のお母さんがあの飯倉香織さんだとは思わなかったなぁ」
「ほんとびっくりしたよね。それにテレビで見たまんまの人だった」
「はは、母さんは良くも悪くも素のままだからね。実憂を娘みたいに可愛がってたけど、最近は遊びに来たりはしないから、はしゃいでたと思うよ」
「また明日もお邪魔しちゃっても大丈夫かな?」
「それはもちろん」
「お菓子も余っちゃったしねぇ」
「流石にあの量は食べきれないよ……」
「でも勉強の方は結構進んだよね!あたしも赤点免れそうだよ!」
大野よ。これだけ勉強して赤点を取るならもう勉強の才能がないぞ。
「明日はるりちゃんも行けたらいいんだけど、平川君大丈夫?」
橘も加わるとなると全部で6人だ。かなり大勢で押しかけることになってしまう。
「大丈夫だよ。明日は母さんも仕事だからリビングでもできるからね」
「そっか。じゃあるりちゃんにも連絡入れとく!」
歩くこと約10分。最寄りの駅へと到着した。
「じゃあ相田君!遥をよろしく!」
「あぁ、任された」
「あたしは子供かっ」
「それじゃ、2人とも気をつけて」
「うん!そっちもね!」
平川と新川の2人と別れ、駅の改札へと向かう。俺と大野は逆方向なので、改札を通ったところでお別れとなる。
「んじゃ、俺こっちだから」
「あ、ちょっと待って」
改札を通った後すぐに別れようとすると、大野から呼び止められた。
「どうした」
「るりちゃんとなんかあった?」
何かあったかと言われればあった。しかし全部話してしまうのはよくないだろう。
「いや、なにも」
「……そっか」
それから大野は黙ってしまった。さて、どうしたものか。
「なぁ、竜崎のことで一つ聞きたいんだが」
「え?」
まさか竜崎について聞かれるとはは思わなかったのか、驚いたような顔でこちらを見る。
「竜崎が孤立してる理由は入学式の日に上級生をボコボコにしたから、だよな」
「う、うん」
「それって、その先輩達が竜崎を呼び出して喧嘩を吹っかけた、ってことか?」
竜崎の名はあの辺りじゃ有名だったらしいからそれも不思議ではない。
「いや、それがわからないの」
「分からない?」
「うん。校舎裏の目立たないところで喧嘩したってのもあるんだけど、ただその喧嘩した竜崎君以外の8人はその後すぐに全員何処かへ転校したらしいの」
「転校?」
正直喧嘩に負けたぐらいで転校するとは思えないが、例えいたとしても8人全員は少々不可解だ。
「竜崎に転校するまで追い込まれた、とか?」
「それは……。ごめん、それ以上はわかんないや。けどその8人は1週間以内に全員どこか引っ越したらしいの」
正直その線は薄い気がする。確かに竜崎は喧嘩が強い。けれど転校するまで追い込むようなやつには思えない。
1対8で負けたことで学校に居辛くなった、というのが1番現実的ではあるが、全員が転校する理由としては弱い。それに1週間で8人全員が転校するなんてこと普通あるのか?
「相田君?どうかした?」
「いや、なんでもない。助かった」
「それはいいけど……。でもどうして急に竜崎君のことを?」
「それは……」
話すべきなのだろうか。橘と大野の仲の良さは俺も知っている。
しかし橘自身が大野に話していないということは俺の口から言うべきではないのではないか。
それにこれはただの推測だ。なんの根拠もない。憶測の話をして大野がどう受け止めるかは分からないが、良い結果にはならない可能性がある。
押し黙った俺も見て大野は俺の顔を覗き込んできた。
「それってもしかして、るりちゃんが関係してる?」
「え……」
「やっぱり」
ニコッと笑った大野を見て俺は息が詰まった。あんな反応をすれば正解だと言うのにとんだヘマをしたものだ。まぁそもそも橘と何かあったとバレてる時点で当然か。
「……大野は、何か知ってるのか?」
「ううん、でもなにかあるんだろうなっていうのはわかるよ」
そう言った大野は少し寂しそうだった。
「多分、るりちゃん自身まだちゃんと整理がついてないんだと思う」
「どうしてそう思うんだ?」
「だって、るりちゃんが竜崎君を見るとき、なんだか辛そうだから」
「心当たりとかは?」
そう聞くと大野は言葉に詰まった。
「わからない……。けど、変わろうとしてるんだと思う」
「何から?」
「……昔の自分から」
最近竜崎とよく話しているのはそんな自分を払拭したいからなのかもしれない。
あの時の橘の言葉は懺悔や後悔と共に、自分自身の誓いだったのだろうか。それは俺にも分からない。
けれど1つ言えることがある。
「なぁ、大野」
「ん?」
「多分橘は、いつかお前にちゃんと話してくれると思うぞ」
そう言うと少し驚いたような表情をした大野だったが、すぐにいつもの元気な笑みを浮かべた。
「うんっ。あたしは待つよ、るりちゃんが話してくれるまで。親友だからさ」
彼女はこれまでもずっと待ち続けていたのかもしれない。橘が自分自身について話してくれるのを。
多分これからも待ち続けるのだろう。橘の親友として。
「あっ、そろそろ電車来るからあたし行くね」
「大野」
ひらひらと手を振って歩き出そうとする大野を呼び止めた。急に呼び止めたせいか少し体制を崩しながらこちらを向く。そんな慌てた様子に俺はふっと笑みを溢した。
「お前、いいやつだな」
「へっ?」
目を見開いて驚く様子に俺はまたも笑ってしまった。そんな俺を見て何故か大野は顔を赤くしている。
「ど、どしたの急に!?」
「いや、なんとなく」
「な、なんとなくでそんなこと言われると困るんだけど……」
いつもの元気な大野とは違い、言葉が尻すぼみになっている。手で髪をくるくると巻きながらこちらをチラチラと見てくる様子はなんだか色っぽい。
「じゃ、じゃああたし行くから!また明日!」
慌ててホームへと向かっていく大野を見送って、俺も同じくホームへ通ずる階段を登る。
ホームに上がると、反対側に大野がいて手を振ってきた。その後すぐに大野の乗る電車が到着し、見えなくなった。
こっちの電車は後3分か。
俺は近くのベンチに座り込み、さっきの話を思い出す。
大野は橘が話してくれるまで待つと言った。親友として。
結局竜崎と橘の関係ははっきりしないままだ。
しかし1つ確実に分かったことがある。
さっき大野は俺に嘘をついていた。
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