第25話 青年の違和感
『迷惑かけてごめんね。ただの風邪だったみたい。熱も下がってきたから今日の夜には宿に戻れそう』
バスに揺られること約30分。新川からメッセージが届いた。『了解。お大事に』と送ると可愛いウサギがサムズアップしているスタンプが送られてきた。なんだそれ可愛いな。
するともう1通メッセージ届く。開けてみると音無からだった。
音無とはちょくちょくメッセージのやり取りをしており、やたらと友達との写真を送ってくる。嫌味かこのやろう。
『先輩見て下さい、洞爺湖です!』
一緒に送られてきた写真には、クルーズ船の上から撮られた広大な湖と青々とした山の数々が写っていた。
『めちゃくちゃ綺麗だな。こっちは雨だぞ。止んできたけど』
『それはお気の毒ですね。私に会えなくて寂しくなった先輩の心と空がリンクしてるんじゃないですか?』
『その理論でいくとお前の心めちゃくちゃ晴れ模様じゃねぇか』
『私も寂しいですよー?』
『も、って俺が寂しい前提で話すな』
『寂しくないんですか?』
『当たり前だ』
『んもー。強がっちゃってー』
『うぜぇ…』
と、まぁいつもの会話と変わらないレスポンスの早さでメッセージのやり取りをしている。話しやすさで言えばこいつが1番だろうな。
『先輩はどんな1日だったんですか?」
『ラフティングしてカヌー体験してからネックレス作って最後に神社に参拝だな』
『へぇー。なんか面白そうなのに先輩から聞くとつまんなそうですねー』
『いや、普通に楽しいわ』
『あ、先輩って平川先輩と同じクラスですよね?』
『そうだけど。なに?あいつのこと好きなの?』
『違います!友達がかっこいいなぁって言ってたんで今度紹介してあげて下さい』
『だが断る』
『ですよね。先輩みたいな日陰者がそんなイケメン友達なわけないですよね』
『おい。一応あいつと校外学習同じグループだぞ。学校でも休み時間とかやたら絡んでくるし』
『えっ、先輩って友達いないんじゃ?』
『その設定続いてたのかよ。まぁ知り合いだ知り合い』
『出た先輩のツンデレ。先輩って何かと周りにすごい人いるイメージなんですけど。あ、私も含めて』
『なにお前有名人なの?』
『知りません。興味ないです』
『だったら何で自分入れたんだよ』
『私結構クラスの男子からお昼誘われたりするんですよ?まぁ全部断ってますけど』
『可哀想にそいつら。食ってやれよ』
『嫌ですよ。一回食べたらじゃあ明日もー。とか放課後一緒にーとかなりますもん』
『へぇ。人気者も楽じゃないんだな』
『あ、先輩嫉妬しちゃいました?大丈夫ですよっ。先輩と意外お昼ご飯食べるつもりないんで。安心しました?』
『いや全然』
『はいはいツンデレツンデレ。あ、そういえば新川先輩とも一緒のグループなんですか?』
こいつ俺に有無を言わさないために露骨に話題変えてきやがった。そういやこいつら一回だけ顔合わせてたんだっけか。
『あぁ、一緒だぞ』
『ふーん。いいですね先輩は。そんな美人に好かれてて』
あれ、なんか急に機嫌悪くない?
『いや好かれてはないだろ。ただのクラスメイトだ』
『その割には仲良さそうでしたよね』
『そりゃ同じグループなんだから仲は良くなる』
『本当にそれだけですか?』
『ほんとほんと。うそつかない。』
『まぁ、今回は許してあげます。』
俺は一体なにを許されたんだろうか。なんか浮気を疑われた旦那みたいな言い訳してるな俺。
『なに目線だお前は。そういや新川も有名人なんだっけ』
『えぇ。アイドルみたいに可愛い人がいるって1年の間でも有名です』
『ほーん』
『先輩から聞いてきたくせになんですかその反応。自分と仲良い人が有名人って嬉しくないんですか?』
『いや別に。有名だろうがなかろうがどっちでもいい』
『まぁ先輩はそういう人ですよね。良くも悪くも人を分けないというか、平等ですよね』
『いやお前俺の交友関係知らんだろ』
『そうですけどー。というか有名人2人と仲の良い先輩って何者なんですか』
『もしかして俺ってすごい?』
『いや全然』
『ですよね』
そんなやり取りを続けているとバスが宿舎へと到着したようだ。
『すまん宿舎ついたみたいだからまた後で連絡する』
『いえいえ、こっちももう直ぐ港に到着しますしね。あ、あとお土産お待ちしてまーす』
『はいはい。あんま期待すんなよ』
それから携帯をしまい宿舎へと戻った。雨に濡れていることもあってか直ぐに入浴となる。
懲りない一ノ瀬達が再び覗きをしようとしたが、登っていた岩に鳥除けの網が置いてあり登れないと嘆いていたが、あいつらは鳥同然なのか。
その後は夕食となったのだが、昨日とは違い宴会場のようなところでバイキング形式だった。
席は自由だが、俺はいつもの様に平川と同じ席に座る。慣れって怖い。
相変わらず人気のある平川は女子達からお誘いの言葉をいくつも掛けられていたが、「すまない、先約があってね」と言うと皆肩を落としてそれぞれの席へと着いていた。
その時女子達から若干睨まれるのはお約束だ。いや実際約束なんかしてないからね。平川許すまじ。
なんの料理を取ろうか彷徨っていると前方に、これでもかとお皿に料理を乗せた竜崎が居た。
歩きながらちょくちょく食ってやがる。昨日から食い意地張りすぎだろ。
お皿に料理を乗せ自分の席へ戻ると、既に取り終えていた平川が座っていた。
「新川さん、体調どうだって?」
「ただの風邪だとよ。今日の夜には戻れそうって言ってたからそろそろ来るんじゃねぇか?」
「そっか。それはよかった」
「あいつに直接メッセージ入れりゃ良かったのに。てか俺が知ってる保証なんてないだろ」
こいつのことだからてっきり自分で聞いているものだと思っていた。しかしそれを聞いて平川は何故か少し悲しそうな笑みを見せる。
5月のあの時の様に。
「それは君の役目だろう?」
「は?役目ってどういう「あ、唯ちゃん!」」
不意に俺の言葉が遮られた。声のする方を向くと女子生徒数人が宴会場の入り口付近に集まっているのが見える。
「新川さん戻ってこれたみたいだね」
「……そうだな」
遮られた俺の質問について平川が触れることはなかった。
少し胸にしこりが残ったが、意識を新川の方へと向け直す。すると新川はこちらに向かってきた。
「相田君、平川君。ごめんね迷惑かけて。もうこの通り元気バッチリだから!」
「気にしないで。何事もなくて良かったよ」
「あぁ、またぶっ倒れられても困るけどな」
「もー。大丈夫だって!」
ちょっと拗ねた様な顔をした新川は直ぐに笑顔で友達の元へと向かった。
「彼女、元気そうで良かったね」
「ま、そうだな。元気じゃないあいつを見ると調子が狂う」
「相変わらず素直じゃないな颯人は」
「お前にだけは言われたくねぇわ」
「ははっ。……それもそうかもね」
乾いた笑みを浮かべた平川を余所目に俺は食事を始めた。
途中平川の方を見るとなにもなかったかの様にクラスメイトと談笑しながら食事をしている。
俺にはそんな平川が何故か痛々しく見えた。
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