第19話 風情漂う温泉に魅惑の香り


校外学習初日。


長野の山奥ということもあり、いつもより早い日の入りを迎えた空は満天の星に照らされ、美しく輝いていた。


宿泊する旅館は築50年と、歴史としてはまだまだ浅く、最近改装されたということで外装と内装のどちらも綺麗なものだ。


俺達の学年は10クラス存在し1クラス約40人となっており、それぞれ2クラスずつ別々の旅館に宿泊している。


その為旅館には俺達のクラスG組とH組が宿泊していた。


「そういやG組って高梨さんがおったんちゃうん?」


部屋の全員で旅館にある温泉へ向かっていると、三バカの1人一ノ瀬が不意に切り出した。


高梨実憂、か。


生徒指導室で顔を合わしただけだが、あの時の事は嫌でも覚えてしまっている。


形容し難い不思議な感覚。一体なんだったのか。


あの日以来俺は夢を見なくなっていた。


それを喜んでいいものかはわからないが。


「あ、そうだったな。美人で頭も良いって反則だよなー」


「高梨さんって彼氏いるのかな!」


「アホ!おる訳ないやろ!俺達のアイドルやぞ!」


と、まぁ相変わらず三バカがはしゃいでいると、前の方から数人が歩いていた。


よく見るとその中には噂の高梨実憂も居た。


タイミングが良いのか悪いのか……。


三バカ達は「うわっ、高梨さんやんけ!今の会話聞かれてへんかな」とヒソヒソ話している。


どうやら彼女達も温泉に向かっているようで、突き当たりの曲がり角を曲がっていった。


「……なぁなぁ、女風呂ってどうにかして覗かれへんかな」


こいつらやっぱりアホだ。




◇◇◇




温泉は思った以上に豪華で、俺の数少ない温泉の記憶の中では1番大きかった。


木材でできたその内装は、壁一面の木目が大自然の風情を醸し出している。


夕方ということもあり、朱く湯船を照らした綺麗な夕陽を水の中に映し出す。


露天風呂も兼ね備えており、辺り一面竹藪が生茂った緑豊かな風景だった。


湯船に浸かると少し熱いと感じるぐらいだが直に慣れるだろう。


ふーっと息を吐くと、今日の移動やアスレチック体験、あと金髪ピアス野郎に絡まれた疲れが抜けていくような感覚がした。


「おいっ、ここから女風呂見えんちゃうか」


「ほんとか!?どれどれ」


まぁそんなまったりとした温泉タイムも三バカのせいで台無しだが。


「うわ、ここから見えるぞ!」


「ちょ、どけどけ!見せろ!」


「くそ!遠目だからちゃんと見えねぇ!」


ヒソヒソ叫ぶという字面にすると違和感バリバリの声で三バカ達が懸命に覗きに勤しんでいた。


ちなみに三バカ達は露天風呂にある岩と竹藪に足をかけ、こちらも竹でできた仕切りの上から顔を覗かせている。


セキュリティに問題ありだろここ。


「ったく、あいつらどこ行っても変わんねぇ」


「ま、それも彼らの良さでもあるんじゃないか?」


「いやただのアホだろ」


俺と平川は浴槽の角に首をつけ天井を見上げながら、視界に入る三バカ達の様子を窺っていた。


「ちょ、全然見えへんし女子達みんなタオル巻いとるやないか!」


「高梨さんいねぇなぁ」


「おっ、あれ新川さんじゃね!?」


ピクッ。


いやいや、気にしてない気にしてない。


ちょっと仲がいい女子の裸に興味があるなんてことはない。本当に。


「ほんまや新川さんや!けどタオル巻いとるやんけ……」


いやいや、ホッとなんかしてない。うん。マジで。


「おいっ、今から体洗うんちゃうか!?椅子座ったぞ!」


いやいや、別に同級生の裸が見られるだけだろ。何も気にしてない。


……何回いやいや言ってんだ俺。


そんな自問自答が頭の中を駆け巡っていたその時、


「ちょ!男子あそこから覗いてない!?」


「うわ!ホントだ!変態!」


バレた。


「やばい!早よ逃げろ!」


「まずいって!顔見られたか?!」


「早く早く!」


三バカ達はやばいやばいと騒ぎ立てながら大急ぎで温泉から出ていった。ちゃっかり覗きをする前に頭の体を洗ってたことになんか腹立つわ。


その後温泉から上がると女子達と遭遇し「どうせ三バカでしょ?」と言われ、俺と平川は苦笑いしながらも頷くしかなかった。


その後三バカ達は女子達の密告を受けて小一時間みっちりと赤崎先生に絞られたらしい。ざまぁみやがれ。







……いやいや、新川の裸見たかったとか他のやつに見られなくて良かったとか思ってないからねマジで。

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