第18話 お約束のアレ

その後アスレチック体験も終わり、俺達は宿舎へ移動することとなった。


クラスメイトがワイワイと談笑していると、俺達とは別のバスが止まっているのが見える。


中から同じ高校生と思わしき人達が降りてきたのだが、その中に如何にも柄の悪そうな4人組がいた。


「あぁー、まじでだりぃわ」


「とっとと帰りてぇー」


あー、なんか関わったらめんどくさそう。


金髪のピアス男を筆頭に、バカみたいにでかい声で騒いでる4人組は、俺達とすれ違うようにアスレチックへと向かって行く。


何事もなければ良いんだけどなぁ、とか思ったのも束の間、その4人組は俺たちのグループの方へと近づいてきた。


「お、可愛い子はっけーん。ねぇねぇ君、連絡先教えてよ」


「おいおい抜け駆けすんなって」


ギャハハハと馬鹿笑いをしている4人組は新川達にしつこく迫ってきた。


……本当ならこういうのスルーしたいんだけどなぁ。


頼りの平川は生憎隣のグループに捕まっていたが、異変を感じてこちらにやってきているのが見える。


……仕方がない。


「おい、その汚い手どけろよバカ共」


え?誰の声かって?


ざんねーん。俺でしたー。


その4人組は俺の方をギロリと睨んでくる。


「あ?んだよテメェ。ぶちのめされてぇのか」


金髪のピアス野郎が俺の方に迫ってくるが、こんなことで怯んではいられない。


「おいおい、この歳でナンパとかまだ早いって。とっとと家に帰ってママのおっぱいでも吸ってろよ」


「んだとごらぁ!!!!」


そいつは拳を振り上げて俺を殴ろうとしてくる。


さぁ、とっとと殴りやがれ。


俺は目を瞑ってその衝撃に備えた。しかし苦悶の声を上げたのは俺を殴ろうとしてきた男の方だった。


目を開けると、お腹を押さえながらその場に踞る金髪ピアス野郎と赤髪の後ろ姿が見えた。言わずもがな竜崎だった。






「……おい。全員ぶちのめすぞ」






底冷えするような冷たく低い声と、見えるはずのないオーラが周りを圧倒した。


後ろにいた3人は竜崎の顔を見て顔を真っ青にしている。


「ふざけんなてめぇ!!!」


蹲っていたそいつは、ようやく回復したのか立ち上がって竜崎に殴りかかろうとしたが、その顔を見た瞬間後ろの3人と同じように顔を真っ青にしていた。


「り、竜崎……」


「あ”?誰だテメェら。喧嘩なら買うぞ、今すぐにな」


身長約185センチ以上はある竜崎は、そいつらを見下ろすように威圧している。


見る限り恐らくこいつらは過去、竜崎にボコボコにされたことでもあるのだろう。


「す、すいません……」


「あ”ぁ!?聞こえねぇよゴラ”ァ!!!」


「「「「す、すいませんでしたぁ!!!」」」」


竜崎は金髪ピアス野郎に言ったんだろうが、他の3人も竜崎の威圧感に圧倒され、走り去っていった。


「……チッ。まだあんなのがいたのか」


そう吐き捨て、竜崎はバスの方へと歩いて行く。


「り、竜崎君!」


叫んだのは新川だった。しかし、ジロリと後ろを見た竜崎に少し気圧されてしまっているようだ。


「……すまん。別に怖がらせるつもりはない」


そう言っていつも通り無表情の竜崎に戻っていた。


「ううん!大丈夫だよ!……助けてくれてありがとう」


「……礼ならそいつに言えよ」


そう言って俺の方を見てくる。


……いや、俺何もしてねぇんだけど。


その後同じく絡まれていた大野と橘も竜崎にお礼を言い、その後俺もお礼を言われた。


なんだか解せないな。ただ煽っただけだぞ俺は。


けれど俺の真意は竜崎にはお見通しだったのかもしれない。


あと少し怒った顔をした新川にも。




◇◇◇




宿舎に到着した俺達は、それぞれ割り当てられた部屋へと荷物を運び込んだ。


部屋割りは俺、平川、竜崎の3人と、一ノ瀬、青山、四宮の合計6人。この一ノ瀬と青山と四宮は、よく漫画とかで見る三バカというやつだ。


いつもやたらとテンションが高く、特に一ノ瀬は関西出身で、こっちに来てもコテコテの関西弁で話している。


「てかさっきの竜崎すごかったなぁ。あれは俺もビビってもうたわ」


布団の割り当ても終わり、ひと段落したところで一ノ瀬が竜崎に声をかけていた。


こいつ心臓強いな。


と思いつつも竜崎の反応が気になりチラッと見てみる。


いつも通りの無表情で、「……別に」と返す竜崎。


ツンデレかよぉぉぉ!


と、まぁありもしないツッコミを入れていると、一ノ瀬が今度は俺の方を向いてきた。


「ほんで相田は煽りすぎやろっ!ママのおっぱいのくだりはあかんとわかってても笑ったで」


そういってサムズアップしてくる。俺は「お、おう。笑ってもらえて何よりだ」としか返せなかった。


「なんであんなこと言ったん?正味殴られるの分かってたやろ?」


正味?なにそれ?調味料?とか訳の分からないことを考えていたが、一ノ瀬のやつなかなか痛いところを突いてきやがる。


「いや、まぁなんか腹が立って……」


「嘘だな」


声の方を見ると、平川がニヤニヤしながら否定してきた。


「……うるせ。なんでも良いだろ」


「えぇー?めっちゃ気になるやん!」


ギャーギャー騒ぐ一ノ瀬の追及をのらりくらりと交わしながら、やっぱり何事もなく校外学習が終わることなんかなかったなぁと、フラグを立てていた過去の自分を恨んでいた。

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