第16話 彼女と美少女後輩と
待ちに待った校外学習!
というほど待ってはいない。というか割と面倒くさい。
けれどどう足掻いたところでその日が避けられるはずもなく、校外学習の当日を迎えた。
梅雨も本格化したせいで5日間大雨が続いたが、その日は狙ったように晴天へと変わり、当日の校庭には1年生と2年生が集まりかなりの人数になっていた。
ちなみに3年生はもう既に出立しているらしい。
1年生は北海道だが400人以上いるため、電車の混雑などを想定して学校からバスで空港まで行くんだとか。俺達2年生はそのままバスで白馬村へ向かう。
校門をくぐる俺を迎えたのは、泊まりがけということもあってかやたらとテンションの高い生徒達だった。
幾ら他の高校と比べて校庭が広いと言っても、この6月のじめじめとした暑さの中、これだけの人数が密着して騒ぎ立てていると鬱陶しいことこの上ない。
この中から自分のクラスを探すのか。と憂鬱な気分になっていたのだが、
「おーい、相田君!こっちだよー!」
よく通るその声の主は新川だった。大きく手を振って叫んでいるのだが、正直恥ずかしいのでやめてほしい。
新川の後ろを見てみると、既に半数以上が集まっているのが分かる。
探す手間が省けた、と意気揚々とそちらへ向かうと、不意に制服の裾を引っ張られた。
「先輩、どうもです」
「なんだ音無か。びっくりさせんなよ」
俺と音無は連絡先を交換して以来、毎日のように連絡を取っている。他愛もない話ばかりだが、さすが女子高生だと感心するレベルで話題が尽きない。
「つうかお前こっち2年だぞ。1年はあっちだろ」
「分かってますよ。時間もまだあるので先輩を探してたんです」
「ん?なんか用でもあったか?」
「……いえ、これから校外学習に行って帰ってからそこから三連休じゃないですか。もしかして先輩が寂しがるんじゃないかと思って会いに来てあげました」
そう言った音無の顔はなんだか赤くなっているように見えた。
「ホームシックになるガキじゃねぇんだから……」
「高校生はまだ子供です」
「だったらお前もじゃねぇか」
「……わ、私はいいんですよ。先輩と違ってクラスにも友達いますから」
「おい待て前もこんな話したな。俺もいるわ一応。多分。知らんけど」
「どっちなんですか……」
「というかほら、さっき俺の名前呼びながら手振ってたあいつ。新川って言うんだけど、結構喋るぞ。友達かは知らんけど」
すると音無は少し不服そうな顔をしていた。
「……先輩。女の子といる時は他の女の子の名前出しちゃいけないって習わなかったんですか?」
「いや、なんだその謎理論。てかそれデート中の話だろ」
「デ、デートって。ま、まだそんな……。で、でもまぁ女の子と2人っきりってことはデートと言っても過言じゃないんじゃないですか?」
「いや、この人数の中でそれは過言だわ」
「先輩は夢がないですねぇ」
「デートを俺の中で夢にするんじゃない」
「じ、じゃあ今度本当に……」
その瞬間後ろからまたもや制服の袖を引っ張られ、振り返ってみると少し怒ったような顔をした新川だった。
「あ、相田君。みんな待ってるし早く行こ?」
「お、おぉ。分かった。悪いな音無、そろそろ行くわ。お前も遅刻すんなよ」
すると音無はすごく怒った顔をして、
「そんなの先輩に言われなくても分かってますよーだ!」
そう言って1年のところへと向かって行った。
すげぇ怒ってたんだけど。なんで?
そういえばちょっと怒ってるそうなやつもここにいたよな。
恐る恐る振り返ると、何故か俯いた状態の新川が俺の制服の袖を掴んだまま立っていた。
「ど、どうかしたか?」
「……あの子と仲いいの?」
「ま、まぁ普通だ」
「普通じゃわかんない」
「えっと、仲は良い方なんじゃないか?毎日一応連絡取ってるし」
昼食のことを話すとなんだかややこしいことになると思い、咄嗟に隠してしまった。別にやましいことなどないのだが。
それを聞いた新川は顔をバッと上げ、
「な、何それ!ずるい!」
「ず、ずるいって。別にそれだけだぞ」
「私だって連絡先持ってないのに……」
新川の落ち込み具合が半端じゃ無い。何も悪いことはしてないはずなのになんだろうこの罪悪感は。
「私も……」
「え?なんだって?」
先に言っておく。別に難聴系主人公とかじゃない。本当に新川の声が小さくて聞こえなかっただけだ。
てかあんなあからさまに聞こえてることをよく堂々と聞き返せるよなあの野郎。いや、作中の話だから別に良いんだけどさ。
そんな誰にかもわからない誤解を解いていると、新川が顔を真っ赤にして、
「私も相田君の連絡先欲しい!」
「ちょ、おま!」
まずい。何がまずいって声が大きかった上に彼女の声はよく通るのだ。容姿も目立つ彼女が大声を上げたとなるとそれはもう見事なまでに注目の的となってしまった。
注目されると胃が痛い。なんて言うやつを見て今までそんなわけねぇだろバカとか思っていた。けど今までバカにしてごめんと土下座したい。本当に胃が痛くなってきそうだ。
2人で足早にクラスの集団へ戻ると、先ほどの喧騒がまた戻ってきた。一旦落着と言ったところか。
「ご、ごめんね相田君」
「いや、別に気にしてないし大丈夫だ」
正直胃の状態が大丈夫じゃなかったが、注目の的から外れて落ち着きを取り戻せた。
新川がどうしてあんな大声を上げてまで俺の連絡先を欲しがったのかはわからない。
けど恐らく彼女程の人気者なら周りから連絡先を聞かれることはあっても聞くことなんてなかったんだろうな。
と、自分の中で噛み砕いて納得した後、新川の方を見て言った。
「あー、連絡先交換するか?」
確かに緊張するもんだ。俺は平川みたいに明るくスマートに連絡先を聞くようなキャラじゃない。
「……うんっ!」
けれど彼女の笑顔はそんな緊張を吹き飛ばしてくれる程綺麗だった。
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