第14話 その美少女後輩は彼を憎からず思っている

「お、音無さん!一緒に弁当食べない!?」


「お前ずるいぞ!俺も一緒にいい?」


「ちょっと、玲ちゃんが困ってるでしょ!」


入学式が終わり、短縮授業も終えた4月上旬。昼休みが始まり、私の元には数人の男子が集まってきた。


正直煩わしい。


私は大人数で、というのが苦手だ。3、4人なら問題ないが、ここで「いいよ」と言ってしまうと確実にそれ以上の人数が集まってしまうのは自明の理だから。


「ご、ごめん。私約束があるから……」


そう言ってお弁当と財布と携帯の3つを持って外へ出た。後ろの男子達が残念そうにしているのは分かったが、クラスの男子と食べる気など更々ない。


一度食堂へ向かったが余りの人の多さに辟易し、敢えなく退散。


その後歩き回った末、校舎裏の中庭付近に良さそうなスポットを見つけた。


お弁当を食べるだけなのにどうしてこんなに苦労しなきゃいけないんだろうか。


「あー、ほんと面倒くさい」


そんな悪態が口をついてしまう。


だがそこには既に先客がおり、お弁当を開けるところだった。ネクタイの色を見る限り2年生だ。


ここでいつもの私だったら何事も無かったかのようにまた違う場所を探しただろう。


「あ、すみません。……あの、隣いいですか?」


けれどもうあまり時間も無く、歩き疲れたこともあってかついそんな事を口走っていた。


もししつこく話しかけられたりでもしたら明日から来ないようにしよう。


そう心に決め、警戒しながらも少し離れて昼食を摂る事にした。しかし—


「ん?あ、あぁもちろん。俺の場所ってわけじゃないし。んじゃ俺はどっか行くわ」


その先輩は私の顔を見てあろうことかそんなことを言い出し、その場を立ち去ろうとした。


目を見ればわかる。これは完全に私に興味すら示していない目だった。


別に自分の容姿が優れていると自惚れたことは今までにない。自分より可愛くて綺麗な人なんてごまんといる。


けれど何も思われないのもそれはそれで心外だ。これでもクラスの男子からしつこく昼食を誘われるぐらいなのに。


「い、いえ。私が後に来たわけですし、居てもらっても構いませんよ」


構いませんよ。って何様なんだ私は。


「そうか、悪いな」


その人はただ一言そう言って座り直した。


私は少し反省しながらも隣で昼食を摂る事になった。


これが私と先輩の出会い。


後に私の高校生活を大きく左右する出会いだった。




◇◇◇




「ほれ」


その後は何事もなくただ無言で昼食を摂っていた私達だが、隣に座っていた先輩が何かを私の目の前に差し出してきた。


「え?これって……」


「君の分」


そう言って先輩は私の横にミルクティーを置くが、流石にこれは受け取れない。


大袈裟だが、これで対価を求められたりすると面倒くさい。


「い、いや悪いですよ!お金払います」


私は財布を取り出そうとするが、


「いらん。俺の心の平穏のために買っただけだ。後、先輩の好意は大人しく受け取っとけ」


よくわからないことをぶっきらぼうに言い放った先輩は、何事もなかったかのように座り直していた。


「……よくわかりませんけど、ありがとうございます」


礼を言ってそれを受け取る。正直まだ不信感は拭えないが、恐らくこれは本当に見返りなど求めていないのだろう。


今までに出会ったことのないような不思議な人だ。


「んじゃ、俺行くわ」


それからしばらくすると予鈴がなり、先輩が立ち上がって教室へと向かう。


その時私は、恐らくこの人がもうここには来ないのだろうと無意識に悟った。


「あ、あの!お名前教えてもらってもいいですか?」


先輩は少し面倒くさそうにすると


「……相田颯人だ」


「相田先輩ですね。私、音無玲って言います。また明日もお待ちしてますね」


また明日、なんて言うつもりはなかったのに。気がついたらそんな言葉が口をついて出ていた。


いや、今思えばただの願望だったのかもしれない。


「……あぁ」


それだけ言って先輩は立ち去っていった。


なんだか面白い先輩だなぁ。


何かを諦めてしまったような目。


あの子・・・と重ねてしまったのかもしれない。


私は先輩が見えなくなってから教室へと歩みを進める。


また明日も来てくれたらいいな。そう願いながら。

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