第17話 黒の神官とエルフの確執

「誰だ?!」


 殺気がした方向に振りかえると俺の目元をナイフが掠めた。


「ぐぅっ!」


 俺の目のすぐ下を刃物が横切っただけで、二人には当たらず、目にも刺さらなくて本当によかった。


「アル君!?」

「パパ?!」


 目尻を抑えていると、急に視界が赤くなる。

 ナイフはもう一本放たれていた。


 こちらも額の横を掠っただけであったが、少し出血していた為、流れてきた血が目に入ってしまったようだ。


「大丈夫だ……いてぇけど」


 ナイフを投げてきた犯人を探すと屋根の上に人影が見えた。

 一人ではない、複数人いる。


「黒い神官服?」


 全員黒い神官服を着ていた。

 それ以外は何も分からない。男か女なのかも区別がつかなかった。


 彼等は何か言葉を発する事なく再び懐からナイフを取り出す。


「アル君! たぶん、あいつら教会の暗部の人間だよ!!」


 暗部に属する連中は、暗殺に特化した連中だと聞いている。

 二人を守りながら戦うのはいささか分が悪い。


 それに奴等の狙いは俺ではなく聖女であるクリスタのはずだ。


「くそ、来るならこい! 全員ここで倒してやる!!」


 やけくそ気味に剣を構える。

 逃げてもこいつらは執拗に追いかけてくるだろう。そんな事ならここで一網打尽にした方がいい。


 壁を背にして二人を後ろに下げ、覚悟を決める。


 クリスタが「えい! えい!」と拳を握り、拳を振る動作をしていた。

 アリアも「なの! なの!」とよく分からないかけ声を上げながら同じく拳を振る動作をしている。


(こいつらはアホなのか? まあ仕草は可愛いんだけど)


 全員で迎え撃つ体勢を整えていると一人の神官が口を開いた。

「……大人しく聖女とエルフを渡せ。そうすればお前の命は助けてやる」


 神官の先頭にいた人物がクリスタとアリアを渡せと言ってきた。

 聖女のクリスタは分かるが、なぜアリアまで?


 それになんであいつらはアリアがエルフだと知っているんだ?

 耳は髪で隠れているはずなのに。


「なんでアリアまで求めるんだ?」


 だから俺はそう聞いた。


「…………」


 答えてはくれなかった。だけどアリアを手にする事によって、こいつらが得をするのは確かだという事だけは分かった。


 尚更二人を守りきらないといけない。


「仕方ねえ。いっちょやるか!!」


 俺は玉砕覚悟で多数の神官と接敵する事となった。


(最悪、二人だけでも逃さねぇと)



「死ねっ!!」



 袋小路に追い込まれた俺達に、神官達が一斉にナイフを投げる。

 俺には遠距離攻撃できる技がない。出来るとしてもまたあの力に頼る事になってしまう。


 ここは耐えて機を待つしか。


 ナイフの雨を剣で凌ぎつつ、攻撃の機会を狙う。しかし神官どもは息つく間もなく、次から次へとナイフを放ってくる。


 それも、正確に俺だけを狙って。


「くっ!!」


 万事休すだ。


 そんな時、鋭利な先端をした矢の雨が降り注いだ。

 俺たちではない、彼等、黒の神官達にだ。


「ぐぁっ!? 我等教会に仇なすとは何者だ!」


 肩を射抜かれた神官は、苦悶の表情を浮かべる。


「あたい達だよ」


 屋根の上に、こちらも複数の人影が見えた。そして部族のような特徴的な装いをしていた。

 特に耳がアリアと同じく尖っていた。


「バーバリアンなの!?」


 アリアが飛び上がって、おーい、おーいと声を上げた。

 それを見たバーバリアンと呼ばれたエルフは、おろおろと泣き出してしまった。


「ああ、良かったアリア様。三年も見つからず、もう二度と会えないものかと思っておりました」


「アリアはピンピンしてるのー!」


 無邪気に飛び跳ねるアリア。それだけで、どんな人の毒気も抜きそうだ。


「アリアの知り合い?」


「なの!」


 クリスタが問うと、小さい頃からお世話になっているエルフだという。

 エルフの実力がどの程度かは分からないが、これで数はほぼ同数だ。


「よし、これなら勝てる」


「人族と魔族の混じり者よ、ここは手を貸そう。聖女とアリア様の護衛は任せろ」


「ああ頼む」


 何人かのエルフが、クリスタとアリアの護衛につく。これで俺も安心して前線に出れる。


 降りてきたバーバリアンが俺の隣に立つ。


「バーバリアンさん。後ろを頼んでいいか」


「無論だ。我等が弓で援護する」


「あんたはどうするんだ?」


 バーバリアンは、背負っていた槍を片手に持ち構える。それが彼女の得物らしい。


 槍の先端は矢と同じ物で作られているようだ。


「仲間の矢に当たるなよ」


「我等の腕を侮辱するでない。そんな下手くそな弓使いはエルフにおらん」


 思ってたのと違った反応が返ってきた。アリアと違って真面目なエルフさんらしい。


「冗談だよ、悪かったな。じゃあいくぞ!」



 二人で一気に前に出る。黒の神官達も上にいれば矢の餌食となるので、乱戦を狙い白兵戦を仕掛けてきた。



「エルフと黒騎士を殺せ!!」



 路地裏で剣と槍と短剣と矢が交じり合う乱戦が幕を開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る