第3話メジロアサマは駆け抜けた

この時の話は私は全く記憶にないが、記憶力のいい年子の弟は覚えていたようだ。まだ当時チョコレート色の電車に乗って競馬場へ、動物園に行って色々な動物を見るのは楽しみだが競馬場に行ったって動物は見れるわけだ。特に弟は虫や魚など生物が大好きなので、馬も見ているだけでも満足できたのだろう。特に子煩悩ではないけれど、まだ右も左もわからない子供たちの目を離さなかったのだろう。我が儘を言ったりおねだりをしたりするような、手のかかる兄弟ではなかったけれどジュースの一杯くらいは飲ませたのだろう。飲ませしなに、今日は動物園に来たと口を含ませることを忘れずに。その日がどんなレースが開催されていたかはわからないが、父のメジロマックイーンに対する思い入れの強さからその祖父に当たるメジロアサマが初めて重賞を買った安田記念なのかなと勝手に思っている。メジロアサマが駆け抜けたとき、父は赤鉛筆片手に競馬新聞を振り上げて子供を横目で見ながら歓声を上げたことだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る