第21話 ライブ決まる
「そういえば最近、ジェフを見ないな」
最近ジェフの姿がない。別にそれ自体は珍しいことではない。どこへ行っているのか、ちょくちょくどこかへ行って帰ってこないことはよくある。だが、これほど長いこといないのは初めてだった。
「もう、一週間になるんじゃないか」
僕はマチを見る。いると思いっきり鬱陶しいのだが、いないとなんか妙に気になる。
「あの人は絶対死なない人よ」
「まあ、そうだな」
確かにジェフは、絶対どこへ行っても生き残る奴だ。なんか妙な適応性というか順応性がある。涼美も全く気にしている様子はない。
部屋の片隅では、丸ちゃんが、今日もメトロノーム相手に、スティックを無心に叩き続けている。
「まっ、別にいいか。そのうち帰ってくるだろう」
とりあえず、この部屋ではみんな平和だった。
「やあ、みなさん、ハローハロー」
「あっ、ジェフ」
そこへ唐突にジェフが帰ってきた。
「どこへ行ってたんだよ。みんな心配してたんだぞ」
なんかほんと久しぶりにジェフを見る気がする。
「オレさまは神出鬼没だ」
ジェフは何かを宣言するように高らかに言った。
「いや、なんか日本語おかしいから・・💧 」
やはり、ジェフは訳が分からん。
「ライブやるぞ」
ジェフが突然叫んだ。
「・・・」
全員、沈黙。ジェフを見る。
「はいはい」
そして、涼美は最近はまっているライトハンドに再び熱中し、マチは読書に戻り、丸ちゃんはスティックをまた叩き始めた。
「そうだね。いつかやりたいね」
僕は適当に相槌を打つ。
「もう決めてきた」
「何!」
全員ものすごい勢いで再びジェフを見る。
「いつ?」
僕が訊く。
「十八日」
「えーっと・・、おいっ、来週の日曜日じゃないか」
「そうだ。そう言っていた」
ジェフは呑気に言う。
「・・・」
僕は涼美を見た。涼美も僕を見る。
「あと十日もないぞ・・」
僕は動揺しまくる。
「どうすんだよ。どうすんだよ」
僕はもうパニック寸前だった。
「ついに来た。ついに来た」
いつか来るその日がついに来た。しかも突然。バンド活動を夢見ていながら、僕はライブを死ぬほど恐れていた。しかし、バンドをやる以上それは避けられない。いつか向き合わなければならない現実だった。
「ライブだ。ライブだぞ」
僕は涼美を見る。
「ライブだぞ」
僕はもう完全にパニック状態になっていた。
「ライブ・・」
「慌てんじゃないわよ」
涼美がそんな僕を一喝する。
「ほんと情けないわね」
「ううっ」
確かに自分でもそう思うほど情けなかった。
「でも、どうすんだよ。実際」
「私に言わないでよ」
「っていうか何やるんだよ。俺たちは持ち歌なんかないんだぞ。コピーか?というかそれすらもない」
「ほんとね」
「ほんとねって、他人事みたいに」
涼美も呑気だ。
「しょうがないわね」
「ん?」
「あたしが前にいたバンドで作った曲をやりましょ」
「そんなのがあるのか」
「あるわよ。ただ、あと十日で覚えるのよ」
「・・・、マジ?」
「マジよ」
「マジかぁ・・」
僕は頭を抱えた。
「マジよ。これは現実よ」
そんな僕に、涼美が冷ややかに言う。
「マジかぁ・・、うううっ・・」
現実と認めたくなかった。僕のいつもの現実逃避癖が出ていた。しかし、そうやって逃げて逃げて、逃げた先に、僕は引きこもり、そして、それでも結局逃げきれず、自殺まで考えた。ここで立ち向かわなければ、僕は結局ずっとダメなままだ。
「丸ちゃんは大丈夫?」
僕は丸ちゃんを見る。丸ちゃんは顔が青くなっていた。想いは僕と一緒らしい。
「は、はい・・」
そして、丸ちゃんは自信なさげに呟く。
「三曲あるわ。それに何かコピー曲入れて形にしましょ」
しかし、涼美は一人落ち着いている。
「うん・・」
「普通、ライブって自分たちの曲があってそれを聞いてもらいたいから、するもんだけどね。何でライブが先になるのか分からないけど。まあ、いいわ。私ライブ好きだし」
「ライブが好きなのか」
「大好きよ。人に見られるって快感」
涼美は目を輝かせる。
「・・・」
対人恐怖症&上がり症の僕にはまったく分からない感覚だった。
「なんで緊張なんかするのよ。それが分からないわ」
涼美が僕を見る。
「なんでって言われたって、するもんはするんだよ」
「何威張ってんのよ」
「うううっ」
確かに威張れることじゃない。
「あたしなんか、もうステージに立って、スポットライト浴びて、人から注目されて、それだけでもう堪らなくアドレナリンが出るわ」
涼美はさらに目を輝かせる。本当に人から注目されるのが好きらしい。
「お前はちょっと特殊な気がするぞ・・💧 」
「そうかしら」
「絶対そうだよ」
しかし、涼美は、全然ピンと来ていないみたいだった。
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