普通のJKで選挙管理委員の私が異世界で宇宙戦艦に乗り悪役令嬢をめざす!

フジワラセブン

序章 悪魔のような女 星団騎士団の悪役令嬢キレーシュ

 かつて古、東洋では宇宙を虚空と読んだという。


 音も無く、果てもない世界の中で星は無数に瞬いている。


 その虚空と言える黒く無限に広がる世界の中で、今大きな花火が打ち上がるように、爆発のような現象が繰り返されていた。


 その爆発に見える現象は宇宙を航行する宇宙戦艦同士の攻撃による光と光のぶつかった影響によるものである。


 今、地球とある異星は戦争状態にある。


 地球から少し離れた、木星にて地球の戦艦は陣を成している。

 そしてそれに対抗するように異星からの戦艦が数隻向かっている。


 異星の名はミラスガン。この戦艦はミラスガンの宇宙防衛星団となる。


 ミラスガンの黒い戦艦はエンジンから緑の光を放って、全速力で地球の戦艦に対して進む。 

 そして三連の主砲から地球の戦艦に向け攻め続けた。


 「うぉぉぉぉ」

 地球側の巡洋艦ぎんれいの乗組員、風城ユウタは揺れる船体の中で叫んだ。

 「気をつけろ!風城。 次の攻撃はかわさないと、やられるぞ」

 ぎんれいの艦長は風城ユウタに言った。


 一方のミラスガンでは司令船となる戦艦に一人の女性指揮官が搭乗している。

 長い髪にヒールの高いブーツを履いた、女性指揮官はメインモニターを観ながら呟いた。

 「地球側もなかなかやるな、我々の攻撃に応戦するとは。もっとも、元々我々の技術供与があったからできて当然か」

 配下の船員が指揮官のもとに来た。

 「キレーシュ指揮官。アレーシュ星団長より暗号によるメッセージです」


 船員から金属板を渡されキレーシュと呼ばれる女性指揮官はメッセージを読む。


 「和平交渉せよ、か。父は何をお考えか」

 配下は

 「地球側にスパイを送っていますが、スパイからの報告によると、地球の軍勢は弱くなっているとの事です。その状況を鑑みての事だと思います」


 「なるほど、これ以上の戦火を広げるな、ということか」

 キレーシュは暗号の書かれた金属板を艦内に投げ捨てた。


 「和平交渉をすると見せかけて一気に叩く」

 「ええ!キレーシュ指揮官、それ星団長からの命令を無視することに……」

 「星団長はもう病床の身だ。今、前線にいるのは、この私だ。よいか、和平交渉を行ったとしても、いずれ地球は我々ミラスガンを下に見る。分かり合えぬかもしれない」


 「し、しかし」

 配下の船員、また他の船員もキレーシュの言葉に固唾を飲んだ。


 二、三隻のミラスガンの巡洋艦が和平交渉のために地球側の戦艦に向かった。

 ミラスガンの副司令が地球側の戦艦に和平交渉を働きかける。 


 地球側も攻撃を止め、戦艦の編成を変えた。巡洋艦ぎんれいも同じように攻撃を止めていた。

 「和平交渉ですか? ミラスガンが」

 風城ユウタは艦長に聞き直した。

 「ああ、そうみたいだな。まあ、元々地球とミラスガンは仲が良かったんだけどなぁ。あいつらも俺らと同じ言葉喋っているし」


 互いの司令船となる戦艦が近づき、停戦の様相をみせた。


 キレーシュは唇を緩めた。

 「今だ! 撃て!」

 船員は止めた。  

 「ま、待ってください! うちの戦艦もそれに司令船もいる! 味方ごと撃つってことですか?」

 「構わない! 司令船とその乗組員は地球に向かって突撃して活路を見出した、名誉の戦死だ! 撃て! 撃て! 撃て!」

 キレーシュはためらう船員を腕づくで払い倒して、自身で主砲のボタンを押した。


 砲撃一閃! 

 味方の司令船もろとも地球の戦艦はことごとく攻撃を受け、破壊された。 

 破壊の衝撃で、巡洋艦ぎんれいも大きく揺れた! 

 「うあー。 くそ! やっぱりあいつら、ワナだったのか!」

 風城ユウタは、ぎんれいの舵を握ろうとした。

 「いかん風城! ここは退散だ!」

 艦長が非常事態であると声を上げる。

 「しかし! あいつら! 和平とか言いながら攻撃してきました。 ううっ」

 先ほどの衝撃でケガをしていた。

 「艦長! 右舷激しく損傷! このままでは船は! 船は!」

 他の船員がぎんれいが沈む事を知らせる。

 船内も非常事態で真っ赤に照明が切り替わる。  


 「全員、直ちに避難せよ! 緊急ポッドに乗り込め!!」

 「艦長!」

 「風城、油断した。我々はミラスガンの本性を知らんかった。 おまえはまだ若い。とりあえず避難して、陸に戻って体制を整えろ!」

 「か、艦長は? 艦長はどうするんです?」


 艦長は静かにうなずき

 「ミラスガンの船に一矢報いる。それから合流するから……大丈夫だ」

 「か、艦長!俺もお供します!」

 「馬鹿! 艦長命令が聞こえなかったのか! 退避せよ!」

 風城ユウタは涙を我慢し拳を震わせた。

 揺れる船体。倒れそうな風城ユウタを艦長は両手で支えた。  


 「生きろ! 未来のために。地球のために。 あぁ、ミラスガンにもいいヤツもいい女もいたのな……。行け! 風城」


 涙を流しながら、風城ユウタは緊急ポッドに乗り込んだ。


 計器類に火花が走る。 

 大きく傾く船体。もう周りには地球の戦艦は残っていなかった。


 緊急ポッドは勢いよく射出された!

 「か、艦長!!!!」

 宇宙の戦火の中、いくつかの緊急ポッドは地球に落ちた。


 ミラスガンのキレーシュの乗る船では、優勢ではあるが鎮まりかえっていた。

 「このまま大気圏に突入して、アジアだったか、もしくは南極大陸を攻めるか。 いや一度は母星に帰った方がよいか」


 キレーシュはボトルに入った水を一口飲んだ。 

 「水、これは確か地球のものだったか」


 ミラスガンの戦艦では、キレーシュの戦略に戦々恐々としていた。

 「味方まで殺すとはな」

 「いや、星団騎士団の団長の娘とはいえ、あまりに冷酷だ」

 「味方まで殺すのは、これが初めてでないそうだ」

 「やめろ、やめろ。キレーシュ様の陰口を言うと、内偵している奴がいてよくて左遷、下手すれば抹殺らしいぞ」


 戦艦内では様々な噂も飛び交っていた。


 キレーシュの艦隊が母星に向けて出発しようとしたその時、大きな衝撃が船内に伝たわった。


 「な、何事か!」

 キレーシュは艦橋で叫ぶ。  


 「ち、地球の船が、攻撃しています!」

 「なんだと!?」


 傷つき、残されたぎんれいが、艦隊の攻撃を時に避けて、時に受けながらもキレーシュの船に激突していた。


 「生き残りの地球の船か!」

 キレーシュの船は大きく傾き始めた。


 ぎんれいの損壊した艦橋で、残された艦長は最後の力を振り絞った。


 「喰らえ!」

 艦長はボタンを押す。

 瞬間、白い光が周りを覆った。

 ぎんれいは自爆した! 

 そしてキレーシュの船、もろとも大きく爆発した!  

 「きゃあああ!」

 「キ、キレーシュ様!」


 静かな宇宙に大きな花火が打ち上がるようだった。


 そして味方をも殺して戦績を上げる悪魔のような女、ミラスガン惑星の若き女性指揮官の名は銀河に轟いた。




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