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ここで度々でてきた魔法とは何か説明しよう。



ティナによるとこの世界には魔法と呼ばれるものが存在するのだという。だがこの世界の住人も全員が魔法を使えるわけではないらしい。ちなみに勇者は基本的に魔法の素養が高いので素早く習得することができるらしい。実際に蓮は簡単な魔法ならティナに教わってからすぐにできるようになった。



魔法とは、思念を現実に投影して想像を現実にする万能の技の総称のことらしい。だが、万能の技というのは誇大広告甚だしい。本当のところ魔法を使うにはかなりの集中力が必要で正確なイメージを頭の中に描かなければいけない上、様々な制約に縛られているのだ。日本でこんなうたい文句を前面に出していれば即座に景品表示法違反に該当するだろう。



例えば爆炎魔法。威力だけ見れば黒色火薬の下位互換程度である。とはいっても、精神を集中して詳細なイメージを思い描くだけで炎を伴う爆発を起こせるのは便利であることは間違いないのだが。



逆に蓮が気に入った魔法も存在する。それが結界バリアである。絶対に怪我なんかしたくない蓮にとってこれほどありがたいと思った魔法は存在しない。なんせ、蓮はここ五年間も自分の血を見たことすらないのだ。痛いのは絶対に嫌だ。断固として避けてやる。その信念のもと、結界の構築の訓練だけは本気で頑張った。



だがしかし、結界は短時間ならとても硬いのだが、一、二秒以上展開しているととても脆くなってしまう。つまり、結界の運用には敵の攻撃を的確に予測して即座に反応する能力が必要とされるのだ。反射神経も動体視力もない蓮は結界をまともに使えない可能性が高い。



ありがたいことに、必要な時にはティナが結界を張る場所を指示することでフォローしてくれる。ティナのサポートはいくら感謝しても足りないぐらいありがたい。



もう一つ、蓮が好んでいる魔法がある。それが、身体強化魔法だ。筋繊維であるアクチンとミオシンへ意識を集中させることで筋力を上昇させることができる。筋力上昇時の爽快感がたまらなく好きなのだ。



そしてついに長い洞窟の旅も終わりを迎えた。洞窟の奥から光が差し込んでいるのが見えてきたのだ。



「あれは太陽の光?」


「うん!やっと外に出られるよ!」


「よっしゃ!」


これでやっと闇に包まれてジメジメした気持ち悪い洞窟の道も終わる。そして来るべき新天地に心躍らせていた。



蓮は思う。そう喜んでいた頃の俺をぶん殴りたいと。



なぜ洞窟からでれば天国に行くことができると錯覚していたのだろうか?蓮は全くこの世界のことを知らないというのに、なぜそんな楽観的予測ができたのだろうか。洞窟を抜けた後に広がっていたのは不条理渦巻く混沌こんとんの魔界だった。



「もしかして、ここって魔王の領地?」


「違うよ!むしろここは魔王のりょーちの反対側!」


「嬉しいはずなのにちっとも嬉しくない報せだな」



これが魔王の領地の反対側というなら魔王の領地はどんなことになっているんだ?



確かに天は地球から見る景色のように綺麗だ。むしろ排気ガスとかがなく空気が澄んでいるおかげで地球よりも綺麗かもしれない。


しかし、あの得体の知れない飛行物体はなんだ?肉眼でははっきりと見れないが、空を翼竜のような生物が遊弋ゆうよくしている。しかも積雲よりも上空にいながら輪郭を保っていることに軽い恐怖を覚える。もし地上に降りたったらどれだけの巨体になるか想像もつかない。



そして視線を落としてしまうと広がるのは地獄。いたるところに禍々しい闇の塊が遠くを漂っている。しかもこれも大きい。比較対象があまりないので正確とは言えないが、横幅十メートルは下らないだろう。さらに轟音ごうおんを鳴り響かせてゆっくり移動してまるで重機のようだ。



左手に広がるのはサバンナ。背中からその胴体の大きさと同じぐらいの長さのある魔獣がいる。三叉に鋭く尖ったトゲを生やし、三頭八足の蜘蛛と蟻を混ぜ合わせたような外骨格を持っている。



「渓谷のおかげで狩りの対象にならないのが幸いか」


「でもあのぐらいの魔獣だったら魔法撃ってきてもおかしくないから注意はしてね」


「こっわ」


「さくてきしてみたけど、二時方向にいくのが一番安全そうだね」


「あの闇の中を通るのは安全じゃないの?あそこなら周りの魔獣から発見されにくそうだし」


「あの闇にぶつかったらすぐに魂が天界にかえるけどいいの?」


「ごめんなさいよくないです」



当たっただけで即死するトラップの方に向かう気なんて起きるはずもなく、蓮は凶暴な魔獣との出現に怯えながらティナの指示通りにサバンナを歩いていく。洞窟の中は狭いから成長できる限界はあるが、未開地にはその制約がない。魔獣はその分だけ大きく獰猛になる。



蓮はもっとちゃんと訓練に励むべきだったと今更ながらに後悔をする。



「魔獣のひょーてきになったらほぼほぼ戦うことになるよ」



もちろん、魔獣からの標的になることを避けるために欺瞞の魔法をかけることもできる。だが、魔法を発動させていても気休め程度にしかならない。一度でも注視されれば解析するでもなく看破されてしまう。



無人の荒野を進むのは非常に精神衛生に悪い。今いる場所も目的地もわからず、目的地の存在すらわからない。しかも何時間経ってもどれだけの距離を動けたのかすら分からない。さらに周囲に跋扈する魔獣の存在が蓮の精神をむしばんでく。ティナの誘導のおかげでなんとか接近せずに済んでいるもの、遠目にダーウィンもびっくりな進化をげた異形いぎょうの怪物を捉えるだけで憂鬱ゆううつな気分になる。



「待ってくれ」



蓮は軽快にスキップしながら進んでいくティナを止めた。



「足がもたない」



ティナの進む速度は少女の全力疾走より少し遅いぐらいだ。むしろ、インドア系である蓮がそのスピードに何時間もついてこられたことの方がすごい。



「身体きょーか魔法かけてるのに?」


「欺瞞を長時間展開していると身体強化魔法を維持できなくなっちゃうんだよ」



数学の問題だ。本気を出せば解ける程度に易しい問題。身体強化魔法の魔法の常時展開は、それをずっとやらされているようなものだ。短時間ならいいが長時間ずっとやっていると疲労が蓄積ちくせきしてミスが多くなってくる。


そのミスをカバーするために、身体強化魔法に割かれる意識の割合を減らさなければいけない。しかも蓮は途中まで身体強化魔法の対象を筋繊維に指定していたせいで余計な精神力の摩耗を食らった。今必要なのは持久力なので、筋繊維よりも毛細血管と呼吸器を意識すべきだったのに。



魔法は意識した対象に効力を発揮するのだ。



「情けないなー」



悪意が微塵もないティナの一言が蓮の心にグサリと突き刺さる。しかし、客観的に見ればティナの一言は至極当然であると言えた。なんせ、高校生の男子が中学生にも満たないほどの女子に先導されて、しかも先に高校生男子の方が音を上げたのだ。



「ティナの方が絶対に勇者に向いてるでしょ」



蓮はその事実から目を背けるべく、ティナの方が異常な存在なんだと悪態をつく。

だが勇者は蓮じゃないとダメなの!という謎理論で反論される。蓮勇者論は万能理論なのだ。

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