実る穂は明日の為に

 山部と会話をしながらもカブトガーのハンマーとメイスをシュレッケンに数回当てただろうか。

 シュレッケンが尻尾を振りラダルグマをひっくり返すと口から短く炎を吐きハンマーの動きを止めると起き上がりながら右の拳をスナイパーグマの顔面にめり込ませる。


 顔をへこませ回転しながら転がるスナイパーグマ。

 ラダルグマの放つ銃弾がシュレッケンの背中に連続で打ち込まれ緑色の血が小さく背中で跳ねる。


 シュレッケンが狙いを定めさせないように軽やかにステップを踏みながら右フックを振るうのに合わせラダルグマは後ろに下がりつつマシンガンを投げ、避けるシュレッケンの反対側からバールを突き立てる。

 刺さったバールごとラダルグマを引き寄せると顔面に拳を突き立てる。


 ラダルグマが目のパーツを撒き散らしなが地面に転がると頭部のリボンのパーツも折れてしまう。

 素早くシュレッケンが近づき肩の付け根を踏むと右腕を引っ張りちぎり始める。


 バキバキと音をたて肘の辺りから配線やパイプが弾け火花やオイルを撒きながら腕が伸びていく。

 穂花が必死に動く左腕の爪をシュレッケンの足に突き立てるが構わず腕が引きちぎられていく。


「くうぅっ、こんなとこで、こんなとこで死んでたまるかああぁ!」


 穂花の叫ぶなか応えるようにスナイパーグマがドリルを回し飛びながら突っ込んでシュレッケンの背中に突き刺す。

 高速で回るドリルがシュレッケンの背中に穴を空け肉片と血を撒き散らす。



 ***



「頑張ってますねえ。あの子達」


 三滝の座るモニターの一部にニヤニヤとした山部の顔が映し出される。


「まあ、あれがあの子達の役目だからね。それよりいいのかね穂花くんを見殺しにして。君のところの秘蔵子じゃなかったのかね?」

「むふふ、ご冗談をあの子は最初から我々に協力する振りをしていただけですから信用なんてしてませんよ」


 笑う山部に合わせ三滝も笑う。


「山部くん君たちはあっちの味方をしているんだろう。我々人類が滅びたとして一体どうするのかね? どこに特なんてあるのか私には分からないんだがね」

「翠のラピスコアの適合係数をご存じですか?」


 三滝が両手を上げ分からないといったジェスチャーをすると山部は嬉しそうなにやけ顔をみせる。


「80%ですよ。瑠璃や穂花が60%なのに対し80%でも自我の崩壊もなく生きている。彼女は限りなくモドラーに近い人間。それはもはや新人類なのです!!」


 三滝が適当な拍手を送るとバカにしたように笑う。


「それでなにかね。君らも新人類になろうとして我々のデーターを送ってモドラー作成に協力していたのかね」

「ご名答です」

「君らがこの9体目のモドラーで10体目の余裕を持って仕掛けてくるのは分かっていた。だからこそこちらも手を打ってるわけでね」


 三滝がモニターの画面を変えると基地のある下田を中心としたレーダーが映し出される。

 下田に向かってくる複数の赤い点。


「ミサイル……以前の使用で生体及び環境の影響が大きいことから条約で禁止されたでしょうに」

「まあそこは裏の力ってやつだよ。ここ下田は日本の治外法権地帯として認められたんでね条約は関係ないって寸法さ」


 三滝はニヤニヤと笑う。


「この9体目をミサイルで討伐し10体目の卵が孵化すると同時にミサイルによる集中攻撃、青ヶ島ごと沈める。完璧だろう」

「そんなことをしたら三滝さんたちも無事じゃ済まないでしょうに」

「私たちはもう基地を捨てて地下から天城山を潜って避難してるよ。つまり我々人類の勝ちだ」


 三滝の勝ち誇った顔に山部は心底不服そうな顔をする。


「瑠璃と穂花はいいのですか? ここまであなたに協力してきた言わば仲間でしょう?」

「仲間? 彼らはこの日の為に作られた人間。つまりここから先は必要のない人間。実によくやってくれたよ。そうそう君らの希望の星、翠くんもしっかりこっちで始末しておくから心配しないでくれ」



 ***



 背中にドリルを刺したまま尻尾を振るとスナイパーグマが足をすくわれひっくり返る。ちぎれかけた右腕を引きずりながら左手の爪を腹部に突き立てるラダルグマの顔面を原形がなくなるまで何度も殴る。

 それでも足で蹴りをいれるラダルグマ。


 その背後からハンマーを背中に刺さったドリルめがけて放ちドリルをシュレッケンの体に食い込ませていく。

 流石に効いたのか横に避け逃げるシュレッケン。


「いけるか……もう少し、もうちょっと動いてくれよ」


 瑠璃が操縦席のモニターを撫でる。モニターには様々な警告文が流れ続けている。


「瑠璃くん! 上空から複数のミサイル反応があります!」

「はあ!? どういうことだ? ミサイルは使用禁止だろ。それに俺らまだここに……」

「裏切られました。私たちごと焼き払う気です」


 珍しく落胆の色をみせる穂花に瑠璃は唇を噛み悔しそうな表情をする。

 ただミサイル攻撃など知らぬシュレッケンの方は激しい攻撃を繰り出してくる。

 2匹のクマの装甲はボロボロで特に顔の部分の損傷は激しい。それに操縦席の360度モニターは半分以上が暗く見える部分が少ない。


 穂花の操縦席にある複数のレーダーが激しい警告音を放つ。瑠璃からも確認できる上空の黒い複数の点がゆっくりと大きくなる。


「穂花走るぞ! 海に向かえば万が一はあるはず。なくてもいい! ボンヤリ死ぬのは俺は嫌だ!!」


 穂花は瑠璃の声で操縦桿を握り狭い視界を頼りに海へと向かいラダルグマを動かす。


 2匹のクマがシュレッケンを置いて海に向かって走り始める。上空から次々と降り注ぐミサイルが地面にあたり凄まじい爆発を起こしシュレッケンを炎の渦に巻いてしまう。

 そんなことも知らない瑠璃たちはただ海に向かって走るが爆風に押されブリキのオモチャのように転がっていく。


 その度重なる爆風に押され海に近付いた2匹のクマが起きると再び這うように海に向かって行く。ラダルグマの足が海に浸かる。


「後、後少し、瑠璃!?」


 穂花の後ろのモニターに映るボロボロの体を燃やしながら襲いかかるシュレッケンを押さえるスナイパーグマの姿。


「先にいけ! 俺はこいつ倒していく」

「バカなこと言わないで私も戦う」


 海から出ようとする穂花に瑠璃が優しい口調で語りかける。


「ごめんウソついた。こいつ押さえているから逃げてくれ。ミサイルはこいつ目掛けて飛んできている。巻き込まれるから逃げて生きてくれ。なあ穂花お願いだ」

「はあ? バカじゃないの! 優しいだけでなんでも救えると思わないでよ! 優しすぎるのは逆に傷つけることだってあるんだから!!」

「昔も穂花にそうやって怒られたっけ」


「!?」


 スナイパーグマがシュレッケンの顎を下から押し上げ首の辺りを持つと肘をシュレッケンの脇に入れ腰に背負うと足を捌き投げ地面に叩きつける。落ちてくるミサイルから走り逃げるが爆風に巻き込まれ飛ばされそのままラダルグマに覆い被さる。

 次々にシュレッケンに落ちてきたミサイルが爆発し2匹のクマを炎と衝撃が襲う。


「もう終わりかあ……最後が瑠璃に守られてなら良いや、満足。瑠璃は動ける?」

「両足がないからもう動けないな。なあ穂花、お前昔さ俺と結婚してお店やりたいとか言ってたよな? 料理が得意だからご飯屋さんとか言ってたよな」

「思い出話? 最後に思い出してくれたんだ」


 穂花が目を瞑り微笑む。


「結婚は無理だがご飯屋さんだけでも叶えてくれ!」

「はぁ!?」

「シスターの様な保育士になりたかった奴とか、本屋さんになりたいって言ってたやつ。スポーツ選手になりたいって言ってた奴。獣医は叶うかもしれないか。

 俺には夢がない、生まれたときからラピスコアを埋められ記憶を何度も消され上書きされた俺には夢がない! 穂花お前には生きて叶えてほしい! 今からそれが俺の夢にするから叶えろ!!」


 スナイパーグマが折れた足の膝の部分だけで立つとラダルグマの胴体部分を引きちぎり大きく振りかぶり倒れながら海に向かって投げる。投げられた胴体は海の底へと沈んでいく。

 

 それを見届け燃え盛る炎の中で瑠璃は呟く。


「頼む……穂花──」


 この攻撃でシュレッケンは討伐。下田の地形は再び大きく変わることになる。

 そして瑠璃と穂花の死亡が発表される。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る